一方、15年、中長期の事業計画を発表した中央大は定員を増やしている。「Chuo Vision 2025」と銘打ち、創立140年を迎える25年までに教育改革を進めるという。その中心として位置付けられるのが、19年の国際経営学部(定員300人)、国際情報学部(同150人)の設置である。これによって大学全体の定員が300人増えることになる(商学部の定員を150人減で相殺)。

 首都圏では中央大のように学部、定員を増やしたい大学がいくつもある。しかし、厳しい規制が待っていた。

 文部科学省は東京23区内の私立大について、19年度の定員増と学部・学科の新設は原則として認められないという方針を出した。その理由について、今年9月に林芳正・前文科相は会見でこう説明している。

「23区に学生が集中すると、地方大の経営悪化による撤退などで地域間において高等教育の格差が悪化しかねません」

 中央大はすでに地の利を生かした戦略を立てた。多摩キャンパスは23区内に入らない。20年、ここに健康スポーツ科学部(仮称)の設置を予定している。

 早稲田大のスリム化、中央大の拡大路線──。この対照的な政策から、多くの大学が置かれている立場、そして、大学の「思想」が読み取れる。

 現在、日本の大学は788校ある(文科省統計。大学院大、放送大学などを含む)。しかし、少子化が進むなか、多くの大学は学生確保に四苦八苦しているのが現状だ。18年度、私立大学の定員割れは210校で、全体の36%にのぼっている。定員充足率50%未満の大学は11校あり、これらはいつ募集停止になっても不思議ではない(日本私立学校振興・共済事業団による統計)。

 一方、文科省は定員割れ大学はなんとか救済しようと、他大学との統合を持ちかけるがうまくいかない。大学間で思惑が一致しない。プライドもある。そんな様子に業を煮やしているのが財務省だ。定員割れの大学は補助金を削ってしまえと、脅しに近い強硬な姿勢を見せる。

 スリム化はいくつかの大学で見られるが、その多くは学生が集まらず、そうせざるを得ないという現状がある。早稲田大のように意図したスリム化はあまり見られない。(教育ジャーナリスト・小林哲夫

※AERA 2018年11月5日号より抜粋