かつて金利の安さだけが決め手になったローン選びが多様化。現在は低金利+保障の充実度で勝負(撮影/写真部・掛祥葉子)
かつて金利の安さだけが決め手になったローン選びが多様化。現在は低金利+保障の充実度で勝負(撮影/写真部・掛祥葉子)
フラット35の固定金利の推移(AERA 2018年10月22日号より)
フラット35の固定金利の推移(AERA 2018年10月22日号より)
【横浜FP事務所代表】平野雅章さん(53)/保険ショップ運営会社などを経て2007年独立。2千件超の相談実績を持つファイナンシャルプランナー。新規相談の7割は住宅ローン関連(写真:本人提供)
【横浜FP事務所代表】平野雅章さん(53)/保険ショップ運営会社などを経て2007年独立。2千件超の相談実績を持つファイナンシャルプランナー。新規相談の7割は住宅ローン関連(写真:本人提供)

 返済額が大きい住宅ローンは、わずかな金利の変動でも生活に影響を与えかねない。「史上最低水準の金利」とも言われる住宅ローンの低金利は、今後どうなっていくのか。専門家や現場を知る人々に話を聞いた。

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 住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)の固定金利ローン「フラット35」の最低金利が、今年8月から10月にかけて合計0.07%、跳ねた。たったそれだけ……と思うなかれ。借入総額が数千万円単位になる住宅ローンでは、コンマ何パーセントの違いが返済額に響く。

 借入期間21年以上35年以下のフラット35の金利は2012年7月に2%を割り、その後も史上最低水準が続いていた。「9月の金利上昇の原因はひとえに日銀の金融政策の微妙な変更にあります」と語るのは横浜FP事務所の平野雅章さん。

「今回の上昇のきっかけになったのは、7月の日銀の金融政策決定会合です。『金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし』という文言で、一定の金利上昇の容認との見方が広がりました」

 日銀の量的金融緩和政策の限界が、住宅ローン金利の低下に歯止めをかけた格好である。

「現在の住宅ローンの金利はまだ低いので、安心して借りていい。ただし今後も日銀の政策修正により上昇する可能性があります」

 10年前、リーマン・ショック直後(08年9月)のフラット35の固定金利は団体信用生命保険料抜きでも最低2.76%だった。今はその半分程度の水準だ。

 固定金利の定番といえるフラット35(買取型)は、民間金融機関の住宅ローン債権を公的機関の住宅金融支援機構が買い取る仕組みで、各金融機関によって貸し出しの条件が異なる。

「フラット35の場合、窓口となる金融機関によって金利が違うことがあります。また、融資手数料が借入額の2.16%(定率制)と高い銀行もあれば、借入額に左右されない『定額制』の銀行も。金利が同じなら、融資手数料が安いところで借りるのがトクという結論になります」

 北関東が地盤のケイアイスター不動産傘下で不動産仲介事業を行うケイアイネットクラウドの佐藤義祥さん(27)に、ディベロッパーの視点を聞いた。

「住宅ローンの金利は東京オリンピックのようなビッグイベントがあると上昇する傾向にあるのは周知の事実です。ただし、金利を上げすぎれば住宅購入検討者の購買意欲が下がってしまいます。需要と供給の関係から考えれば、多少は上がっても、このまま上がり続けることはないのではないか、というのが現場での感覚です」

 日銀がいまだ量的金融緩和政策を堅持している以上、金利が多少上がったからといって焦る必要はない。ただ、上がり始めてから「あ~あ~」とため息をつくぐらいなら決断しよう。

住宅ローンは融資の審査申し込みから実際の借り入れまで、時間がかかることもあり、ネット銀行では数カ月になってしまう場合も。ただ、物件購入を決めてから引き渡しまでの期間は短いこともあるので、のんびりしすぎてもいられない。(経済ジャーナリスト・安住拓哉)

※AERA 2018年10月22日号より抜粋

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安住拓哉

安住拓哉

出版社勤務を経て2021年に独立。経済関連記事全般が得意。取材・執筆歴20年以上。雑誌の取材記事の他、単行本のライティングも数多く手掛ける。

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