だが、依頼人たちは決して「被害者」ではない。彼らは現状に疑問を持ち、積極的に社会に問いかけようとする。なにより映画は愛とユーモアに満ちている。

「二人があるきっかけで面倒を見ている少年カズマくんは、自分のガールフレンドに二人のことを『別にふつうやで』と言う。そう、彼らはなにも特別ではないんです。そのことが伝われば嬉しいですね。人は誰も悩みを抱えている。それでいい、弱さも悩みも分かち合える社会にしようとする二人は、自らの生き方でそれを体現しているんです」

 監督はこの撮影をきっかけに大阪在住となった。いまも“外からの視線”を持ちながら、日本の状況を冷静にとらえている。

 最近では「LGBTには生産性がない」との主張を雑誌に寄稿した杉田水脈衆院議員にも感じるところがあったという。

「彼女自身も女性としてつらい体験をしてきたのではないでしょうか。『自分がつらかったから、あなたもがまんしろ』という負の価値観を持ってしまったのかもしれません。でも、それは誰もがどこかに持っている意識でもある」

「役に立たない人をなぜ助けるのか」という優生思想は日本だけではない、と冷静だ。

「彼女を糾弾するだけでは、社会の問題に目を向けることができない。それに今回、彼女の主張はたくさんの人をつなげるきっかけになりましたよね。発言を受け取った我々が、うまく今回の問題をやさしさとか、多様な“生産性”につなげればいいと思います」

(ライター・中村千晶)

※AERA 2018年9月24日号