戸田ひかる(とだ・ひかる)/1983年生まれ。オランダ・ユトレヒト大学で社会心理学、ロンドン大学大学院で映像人類学とパフォーマンスアートを学び、ディレクター・編集者としてロンドンを拠点に映像を制作(撮影/山本倫子)
戸田ひかる(とだ・ひかる)/1983年生まれ。オランダ・ユトレヒト大学で社会心理学、ロンドン大学大学院で映像人類学とパフォーマンスアートを学び、ディレクター・編集者としてロンドンを拠点に映像を制作(撮影/山本倫子)
映画「愛と法」は9/22(土)から大阪のシネ・リーブル梅田で先行上映、9/29(土)から東京・渋谷のユーロスペースほか全国順次ロードショー (c)Nanmori Films
映画「愛と法」は9/22(土)から大阪のシネ・リーブル梅田で先行上映、9/29(土)から東京・渋谷のユーロスペースほか全国順次ロードショー (c)Nanmori Films

 大阪のゲイ弁護士カップルを描いたドキュメンタリーが公開される。オランダ育ちの日本人監督が切り取った愛とユーモア、そして現代ニッポンが抱える問題とは?

【映画「愛と法」の場面写真はこちら】

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 映画の主人公はカズ(南和行)とフミ(吉田昌史)。大阪で「なんもり法律事務所」を営む二人は、仕事も暮らしも二人三脚でこなすパートナーだ。

 10歳からオランダで育ち、海外を拠点に活動してきた戸田ひかる監督(35)が、知人の紹介で二人に出会ったのは6年前のこと。

「二人の人間臭さや、弱さも含めてお互いを受け入れ合っている様子に魅了されました。カメラの前でも自然でオープンな彼らを通してなら、日本人の“見えにくい”内面を映すことができるのでは、と思ったんです」
                     
 監督自身が感じてきた、日本に対する「違和感」の正体を探りたい、という思いもあった。

「たまに日本に帰ってきて飲み屋で政治の話をすると『空気を読め』と怒られる(笑)。なぜ日本ではこんなに『みんなと同じ』を強いられるのか。そんな国でマイノリティーと呼ばれる人たちがどのように生きているのか。自身も外国で女性でアジア人という“マイノリティー”として長年過ごし、興味がありました」

 映画にまず映るのは、二人の「ふつうの暮らし」だ。仕事を終えて家に帰ると、可愛いが二人を出迎える。フミが料理を作り、カズが後片付けをする。

 そんなほほえましい日常とともに、彼らが手がける案件が紹介される。セクシュアルマイノリティーや無戸籍に悩む若者、女性器をアート作品にし「わいせつ物陳列罪」に問われたろくでなし子さんの裁判、「君が代不起立」で処分を受けた教師の弁護──二人は日本の社会から「はみ出すことを余儀なくされた」人々を助ける浪花の弁護士なのだ。

「司法と向き合う彼らの立場から見ると、バラバラに思える出来事がすべてつながっているとわかるんです。どれも法律で守られるべき権利が守られていない状況。そこに“個”が尊重されない社会、弱者を生む社会の問題がある」

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