「わたしたち管理職は、その答えを持っていない」

 ある金融関連企業では管理職と部下が結託して、答えを見つけた。午後8時の強制消灯の直前になると当番がスイッチの近くに構え、照明が消えると同時につけ直す。残業手当はつかないが、仕事を続けたければできる。帰りたければ帰っていい。会社に内緒で、いわば非公式に社員が「残業する」「帰る」を選べるようにしたわけだ。

 公式には、多くの経営者が出した答えは効率の向上だ。重要度が低い作業を捨て、収益に貢献する業務に集中することを指す。メガバンクでは、全国の支店の営業成績を毎日集計して報告書にまとめるといった定型業務を自動化している。集計担当は営業部門に移った。当然、成果を問われる。仕事の密度は格段に濃くなった。そうした行員のひとりが上司に漏らした。

「このごろ猛烈に忙しいです。でも残業代がなくなって、給料は減りました。釈然としません」

 現場で悲喜こもごもを生みだした働き方改革について、前出の佐藤教授は、経営側の判断が不可欠と説く。

「仕事を減らすには、極端に言えば、利益率が低い事業から撤退して売り上げを減らすことも辞さないか、といった経営姿勢に帰結するのです」

 自動車会社の部長は昨年がんを患って休職。勤務先の働き方改革で設けられた休暇制度を使って復帰したという。こう語る。

「本当に必要な働き方改革は単なる残業短縮ではない。だれもが心身ともに健康で働き続けられる社会を実現してほしい」

(ジャーナリスト・大竹哲也)

AERA 2018年9月17日号より抜粋