一本のダンス動画との出会いから始まった青春(※写真はイメージ)
一本のダンス動画との出会いから始まった青春(※写真はイメージ)

『しき』(町屋良平著)は、特技も反抗期もない高校2年生の星崎を主人公に、とあるダンス動画がきっかけとなって始まるストーリーを描いた、「恋」と「努力」と「友情」の青春小説だ。三省堂書店の新井見枝香さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

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 ネットに上げられた、男性2人組のダンス動画がきっかけだった。

 その春、高校2年になった「かれ」は、どうしてもそれを踊りたくなった。ひとり夜の公園で練習を始め、夏の匂いが近づくころには、相方を得て2人組になる。そして、秋と冬を乗り越えて、また訪れた春の夕暮れに、ひとつの区切りを迎える。

 その四季は、川べりで寝泊まりする、小学校時代の同級生「つくも」にも等しく訪れていた。事情は聴かれない。かれはそういうタイプの人間ではなかった。そもそも、つくもに対するかれの「思い」も、かれ自身よくわからないのだった。なにもかもが、まだ、だった。これからだ。かれ自身がまだ気づいていないこと、言葉に変換できていないことが、こうして言語化され、小説になってもまだ、全くこれからなのだった。

AERA 2018年8月13-20日合併号