「去年出た、柴田元幸さんの新訳も楽しいですね。ハックは友だちになった黒人奴隷・ジムを助けますが、当時は重罪とされる行為です。悩んだ末に、自分で考えてジムを助けると決意するところがすごくいい! 人間が平等であることを、これほど説教臭くない書き方で伝えたマーク・トウェインが、アメリカの作家にとって特別な存在であるのがよくわかります」

 最後はイギリスの作家、チャールズ・ディケンズの『大いなる遺産』。

「ピップという孤児に近い境遇の男の子の成長物語なんですが、小説としての仕掛けが施されていて面白いんです。成長したピップは、遺産を相続することになるんですが、贈り主は隠されています。果たしてピップに遺産を贈ったのは誰なのか。物語を読んでいくと、タイトルやエピソードの別の意味に気づきます。私はこの本を読んで、小説の面白さを初めて知りました。大人の小説の入り口として、お薦めの一冊です」

 物語は子どもにも大人にも、ひとしく開かれている。本の扉をあけて、物語を旅しよう。(ライター・矢内裕子)

AERA 2018年7月23日号より抜粋