久保木容疑者が勤務した療養病棟では、特別養護老人ホームなどの高齢者施設には入りにくい、点滴や酸素吸入、経管栄養などを受けている人も受け入れていた。内部は薄暗く、話すのも困難な人が多かったという (c)朝日新聞社
久保木容疑者が勤務した療養病棟では、特別養護老人ホームなどの高齢者施設には入りにくい、点滴や酸素吸入、経管栄養などを受けている人も受け入れていた。内部は薄暗く、話すのも困難な人が多かったという (c)朝日新聞社

 逮捕されたのは捜査線上に名前が挙がっていた元看護師だった。「20人くらいの患者にやった」。驚きの供述を始めている。

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 朝、自宅近くのバス停から7時18分発のバスに乗り、最寄りのターミナル駅へ。そこからまたバスを乗り継ぎ、川崎市内の物流倉庫に向かう規則正しい毎日。人の噂も七十五日と言うが、すっかり日常を取り戻したと思っていたのだろうか。

 横浜市神奈川区の大口病院で2016年9月に入院患者が相次いで中毒死した事件で、捜査開始から約1年10カ月、同病院の当時の看護師、久保木愛弓容疑者(31)が殺人容疑で逮捕された。逮捕前の久保木容疑者の様子を知る人物は話す。

「(看護師を辞めた後に勤めていた)物流倉庫では派遣社員として、今年の春から働いていました。寄り道もせずに帰り、休日もほぼ出歩くことはなかった」

●同じ場所に住み続ける

 久保木容疑者が住んでいた横浜市鶴見区内のアパートの近所に暮らす住人は、驚きを隠さない。

「事件発生時に久保木容疑者が犯人に疑われ、彼女の家に報道陣が押しかけていました。でも、その後も同じ場所に住み続けていたので、てっきり犯人ではないのだと思っていました」

 久保木容疑者の逮捕容疑は16年9月18日に西川惣蔵さん(当時88)の体内に消毒液「ヂアミトール」を混入させ、それに含まれる界面活性剤による中毒で殺害したものだ。西川さんの死亡の2日後には、同室に入院していた八巻信雄さん(当時88)も死亡。血液と点滴から同じ界面活性剤の成分が検出されており、点滴に消毒液を混入したとみられる。被害者は2人に留まりそうにない。

「事件の2カ月前の16年7月中旬ごろから、20人くらいの患者に(点滴への消毒液の混入を)やった」

 捜査関係者によれば、久保木容疑者はそんな供述をしているという。犯行動機に関しては「自分が勤務のときに亡くなると、家族への説明が面倒だった」とし、「自分の勤務中に亡くなるかもしれない容体の悪そうな患者を選んで、消毒液を混入した」などと話している。

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