●上司にもストレス

 久保木容疑者が勤務していたのは大口病院4階にある療養病棟だった。自分で食事もできず、回復の見込みが低い終末期の患者などを専門的に診ていた。大口病院の近所に住む70代の男性はこんな話をした。

「病院の前を霊柩車通りと揶揄する人がいるくらい、亡くなる人が多い。大口病院は料金も良心的で、ほかで見放されても診てくれると評判だった」

 終末期医療の現場も知る精神科医の片田珠美さんはこう話す。

「終末期医療は死亡退院が圧倒的に多くて、医師も看護師もやりがいを感じることが難しく、職場にストレスを生み出しやすい。患者が終末期の高齢者であることから、久保木容疑者は罪の意識や後悔をあまり感じずに済んだのかもしれません」

 久保木容疑者の職場ではトラブルが続いていた。16年4月にはナースステーションにあった看護師の服が切り裂かれ、6月にはカルテ数枚が紛失。8月には看護師のペットボトル飲料に異物が混入され、職員が口に含むと漂白剤のような異臭がする騒ぎもあった。久保木容疑者の母親に近い人物は、こう話す。

「現場の上司にもストレスを感じており、病院の中で犯人捜しが始まったときには母親に『疑われるのが嫌だし警察を呼べばいい』などと話していた」

 ただ、身の潔白を母親に告げる半面、供述によればこの時期から点滴への無差別な混入が始まっている。いったい、何が狂気につながったのか。

 久保木容疑者は4人家族の長女。会社員の父と専業主婦の母に育てられた。神奈川県伊勢原市の中学時代の同級生は「目立たない大人しいタイプ」と振り返った。公立高校を卒業後は看護学校に進学し、08年に看護師免許を取得。別の病院勤務を経て15年5月に大口病院に転職した。元同僚はこう話した。

「仕事は真面目ですが、仕事以外の付き合いはなく、何を考えているかよくわからない」

(AERA編集部・澤田晃宏)

AERA 2018年7月23日号