より早く、広く、正しく伝える義務がある(AERA 2018年6月18日号より)
より早く、広く、正しく伝える義務がある(AERA 2018年6月18日号より)
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 パナソニックは宣伝広告を「義務」と表現する。いい商品は、その存在を広く社会に伝えなければならない。そのための広告である。

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「買って安心、使って徳用、ナショナルランプ」。1927年に掲載された最初の新聞広告である。この3行広告のコピーとデザインを、松下幸之助は三日三晩寝ずに考えたという。その言葉の並びに、幸之助のこだわりがみてとれる。

「買って徳用、使って安心」のほうが、言葉の意味のつながりはスムーズだ。安心を訴求したいのなら「使って安心」を先に持ってきてもいい。おそらくは何度も比べてみた後に、少し違和感の残る「買って安心」をあえて先に持ってきた。買い手にまず何を伝えるべきか。考え抜いた末の決断だったのだろう。

 幸之助は次のような言葉を残している。われわれ商人・産業人には「この商品をあなたがお使いになれば、便利で利益になりますよ」ということを消費者にお知らせする義務がある。その義務を果たすために「宣伝」をするのだ。  買い手の価値を重視する「知らせる価値のあるものをつくって、初めて宣伝の必要が出てくる。宣伝もできないようなものなら、製造をやめねばならん」との言葉は、マーケティングの神髄にも通じている。

 マーケティングの基本的な考え方となる「4P」とは、

Product:製品
Price:価格
Promotion:プロモーション
Place:流通

 売り手・企業視点の4Pに対して、買い手視点を重視する「4C」が提唱されたのは、ようやく90年代に入ってからのこと。ところがそのはるか前、最初の広告を考えた段階で、幸之助は既に顧客視点に立っていた。

 およそあらゆるビジネスは価値と対価の交換であり、価値を認めるのはあくまでも顧客であることを、商いを始めた当初から幸之助は肌感覚として身につけていたのだろう。

 だから広告表現の方向性も、常に顧客視点が徹底される。例えば、70年代に電子レンジが出始めた頃の広告では、誰もがまだ使ったことのない電子レンジのメリットを伝えるためにレシピ提案や使い方紹介などに力が入れられた。新たな機能が実現する顧客にとっての価値の表現が、広告のテーマとなっている。

 製品へのこだわりが、広告として表現される。顧客にとっていいものをつくるからこそ、そのよさ、顧客にとっての価値を正しく伝える広告が必要になる。宣伝などしなくとも、いいものであれば伝わる……とは考えなかったのだ。(ライター・竹林篤実)

AERA 2018年6月18日号