様々な経緯で、強烈だったはずの性愛の煩悩から解脱した人たちは少なからず存在する。

「この30年間、性的な退却は進む一方」と指摘するのは、首都大学東京教授で社会学者の宮台真司さんだ。性的な退却、すなわち解脱はあらゆる年代で起こっている。

「交際相手のいる学生に話を聞くと、『セックスは2カ月に1度くらい』と答える学生は少なくない。諦念ではなく、欲望自体が湧かない、という人が増えていると感じます」

 性に苦手意識があるわけでも、性欲がないと困っているわけでもない。ただ、性愛抜きに日常が進んでいく。

 日本性教育協会の調査によると、大学生の性体験率は男子が1999年に62.5%、女子が2005年に61.1%とピークを迎えるが、11年にはそれぞれ54.4%、46.8%に減っている。未婚男女の交際率は、20代男性が13年33.3%から16年22.3%に、20代女性は42.6%から33.7%に激減(明治安田生活福祉研究所調べ)。日本家族計画協会の調査では、1カ月以上セックスのない状態の夫婦の割合は06年の34.6%から、16年に47.2%へ大幅に上昇した。

 多くの識者たちが、この潮流を察知している。『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』の共著者で著述家の湯山玲子さんは、性的退却の一因として、エクスタシーとファンタジーの蔓延を指摘する。

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