同社は今後も果皮などを使った商品展開を計画。6月5日にはオレンジピールとコリアンダーシード使用の「グランドキリン 雨のち太陽、ベルジャンの白」を発売する予定だ。田山の期待感も大きい。

「これまでのビールの新商品は、ネーミングやパッケージは違っても飲んだら味は一緒という傾向があった。それがビールが飽きられる原因の一つかもしれない。副原料の幅が広がって、分かりやすい違いを伝えられるようになった。注目のされ方も変わってくるはずです」

 これを商機とみるのはキリンだけではない。サントリーも動いた。定義変更を機に麦芽使用比率98%の新商品を市場に投入。希望小売価格は設けていないが、通常のビールと同等の販売価格にするつもりという。

「定義変更を機にビールの味の領域を広げたい。プレミアムなものをつくろうとしているわけではありません。麦芽使用比率が高いのも、今回の副原料で味のバランスが一番良かったからにすぎません」

 そう話すのは、サントリービールマーケティング本部ブランド戦略部課長の奥田秀朗だ。4月10日に全国で発売する新商品は数量限定。種類は二つ。一つは「海の向こうのビアレシピ<オレンジピールのさわやかビール>」で、オレンジピールとコリアンダーシードに柑橘系の香りが特徴のホップを使用。オレンジを添えたようなフレッシュで爽やかな香りを実現した。これは「米カリフォルニアで楽しまれている味」だそうだ。

 もうひとつの「海の向こうのビアレシピ<芳醇カシスのまろやかビール>」は、カシスを使用。まろやかな口当たりと鮮やかな赤の色合いが特徴だ。ベルギーで親しまれている「フルーツビール」がヒントになったという。

 オレンジやカシスの特徴を生かすのは発泡酒でもできそうだが、「発泡酒とは、まるで違います」と奥田は断言する。どういうことか。

「出来上がったビール味の飲料に他の味を“まぜる”のが発泡酒ですが、今回はビールを作る発酵段階から副原料を使える。副原料と麦芽、ホップを使った新たな素材で、ビールを一から作るわけです。そこが定義変更による、一番大きな違い。味の広がりや深まりが出て、発酵というビールの製造工程が生かされた、ならではの味が実現する」

 と奥田は話す。

 ただこのようなビールは、実は世界的に存在しており、広く飲まれている。今回の定義変更で、ようやく日本でも国際レベルのビールを楽しめるようになる、というわけだ。今後はマーケティングも重要になってくる。奥田は「『こういうビールもあったんだ』という認識が広がるきっかけになるはず。需要創造のチャンスだととらえています」と言う。もちろんそれには、一体何が変わったのかなど、店頭での消費者へのアピールも重要になってくる。(文中敬称略)

(ジャーナリスト・前屋毅)

AERA AERA 2018年4月9日号より抜粋