第四新卒で入社した向井恒年さん(53)。初めての単身赴任、初めての関西勤務。「勤めて半年。会社に早く貢献したい」と意気込む(撮影/写真部・岸本絢)
第四新卒で入社した向井恒年さん(53)。初めての単身赴任、初めての関西勤務。「勤めて半年。会社に早く貢献したい」と意気込む(撮影/写真部・岸本絢)
森下仁丹 代表取締役社長 駒村純一さん(67)/三菱商事の化学畑を歩み、52歳で退社。2003年、森下仁丹に執行役員として入社。06年の社長就任後、機能性表示食品「ビフィーナ」などを大ヒットさせ、経営立て直しに成功(撮影/写真部・岸本絢)
森下仁丹 代表取締役社長 駒村純一さん(67)/三菱商事の化学畑を歩み、52歳で退社。2003年、森下仁丹に執行役員として入社。06年の社長就任後、機能性表示食品「ビフィーナ」などを大ヒットさせ、経営立て直しに成功(撮影/写真部・岸本絢)

 65歳まで継続雇用する企業が増えたとはいえ、60歳以降の給料は かなりの下落傾向。これを老後不安ととらえるか、働き方を変えるチャンスととらえるかで、人生のクオリティーは大きく変わる。

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 これまで50代の会社員にとって残りの会社人生といえば、一部の出世組を除き、ある意味、「消化試合」だった。退職までの期間を、若手に比べて高額な給料をもらいながら、いかに逃げ切るか、という働き方だ。だが、100歳まで生きるかもしれないのに「60歳定年から嘱託等で65歳終了」では、金銭的にも精神的にも満ち足りない。

 最近では、50歳を過ぎてから転職、副業、起業などの形で新しい人生を模索する人が増えている。そして受け入れ側の企業にも変化が見られる。彼らの声から、人生100年時代の働き方の新基準を探ってみよう。

 年齢不問の「第四新卒採用」が話題になったのが、創業125周年の老舗・森下仁丹だ。

「第四新卒という言葉の由来ですか? 新卒って第三まではあるよね、ならば第四で、と自然に出てきたネーミングなんです。商標登録しておいたほうがいいかな(笑)」

 と笑うのは、同社社長の駒村純一さん。「オッサンも変わる。ニッポンも変わる。」というキャッチコピーでスタートした第四新卒募集には、10人前後の枠に40~50代を中心とした約2200人が殺到した。

 なぜ中高年をターゲットに?

「新卒社員がいらないというわけではありませんが、経験とリーダーシップで若手社員を導き、新たなビジネスを創出できる人材が欲しかった。それには30代だと若すぎる。人脈も豊富な40、50代で『もう一旗あげてやろう』という意欲のある人を探していました」(駒村社長)

 第四新卒採用の高倍率をくぐり抜け、昨年9月から同社の経営企画室長を務める向井恒年さんは、ソニーで約30年、海外営業職を務めたあと、早期退職して人材派遣会社に勤めていた。

「森下仁丹の直前はヘッドハンティングの分野にいたので、同じ日本の企業といっても学歴を重視するかしないか、会議前に根回しが必要か不必要か、など会社によって文化がまるで違うことは理解しているつもりです。50代からの転職は、海外赴任のつもりで、異文化を楽しむぐらいの気持ちがないとうまくいかないと思います」(向井さん)

 自らのキャリアが、まったくの異文化といえる別の会社で通用するか、新しい環境に合わせられるか。このあたりが高齢転職の成功の鍵となりそうだ。(ライター・中島晶子、安住拓哉)

AERA 2018年4月2日号より抜粋

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中島晶子

中島晶子

ニュース週刊誌「AERA」編集者。アエラ増刊「AERA Money」も担当。投資信託、株、外貨、住宅ローン、保険、税金などマネー関連記事を20年以上編集。NISA、iDeCoは制度開始当初から取材。月刊マネー誌編集部を経て現職

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安住拓哉

安住拓哉

出版社勤務を経て2021年に独立。経済関連記事全般が得意。取材・執筆歴20年以上。雑誌の取材記事の他、単行本のライティングも数多く手掛ける。

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