私は、遺族との交流を通じて、インタビューという手法の敗北ではないか、と感じました。インタビューには、取材相手を無意識に強くあろうとさせてしまう「負の面」もあるのではないでしょうか。聞きたいことだけを聞くことで、被災者の世界観を無視しているのではないかと気づいたのです。当事者の話を聞くことで何か分かると思っていたけれど、他人に語らない部分にこそ、社会が注目すべきものが逆に映し出されると考えています。

 リチャードさんは震災の取材を通じて、従来の手法が覆させられたという経験はありましたか。

ロイド パリー:対面して話を聞く方法は変わっていません。ただ、1回の取材時間が長く、何度もうかがうことになりました。本の核となる大切な話が、最後の取材で聞いた話だったこともあります。1、2回の取材では聞けなかったでしょう。深い信頼関係を結ぶことの重要性を感じています。

●時間や空間と死者との関わり方とは

金菱:『津波の霊たち』には、大川小学校の遺族を丹念に追っていった部分と被災地での霊の話が収められています。霊の話は社会的に低く見られがちです。日本のジャーナリストであれば、大川小学校と霊の話を分けて書いたのではないかと思うのですが、一冊にまとめた狙いはどこにあったのでしょう。

ロイド パリー:念頭に置いていたのは物語性のあるノンフィクションを書くことでした。大川小学校のことは例をみないストーリーでしたし、感情に訴えるものがありました。英語版のタイトルの「Ghosts」という言葉には霊だけでなく、人々の感情や人間関係などの意味も込めています。ゴーストのエピソードを書くことで、震災がどれだけ人々にとって衝撃的だったかを伝えられると思ったのです。

──お二人は震災に対して今後、どのように関わっていこうとお考えですか。

金菱:亡くなった方は過去の存在にされ、社会的に葬られていますが、霊や夢という形で「今」という時間軸や空間をおかす存在になっています。そうした時間や空間と死者との関わり方について、今後も調査していきたいと考えています。

ロイド パリー:日々の報道では震災の記事を出す機会は減っています。また日本のように経済的に恵まれた国では物質的な復興は非常に速い。ですが、心理面を見ると、被災者に及ぼした精神的な影響は生涯、続くでしょう。大川小学校の控訴審も間もなく判決が出ますし、これからも一人のジャーナリストとして一生をかけて向き合っていく問題だと思っています。

(構成/ライター・角田奈穂子)

AERA 2018年3月12日号