論文不正問題で揺れた京都大学iPS細胞研究所。「長期雇用の財源や、若手研究者の育成」などのために寄付を募っている (c)朝日新聞社
論文不正問題で揺れた京都大学iPS細胞研究所。「長期雇用の財源や、若手研究者の育成」などのために寄付を募っている (c)朝日新聞社
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若手教員は任期つきが増加(AERA 2018年2月26日号より)
若手教員は任期つきが増加(AERA 2018年2月26日号より)

 学術研究の現場を支える非正規の大学教員や研究者。若手研究者の明るい未来なしに、技術立国としての未来は守れない。

【図表で見る】若手教員は任期つきが増加

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 今年1月。ノーベル医学生理学賞受賞者の山中伸弥教授が所長を務める「京都大学iPS細胞研究所」所属の特定拠点助教(36)の論文捏造・改竄が明らかになった。この助教が、この3月までの期限付き雇用だったこともあり、「9割以上が非正規雇用」(同研究所の公式サイトに明示)という研究所の特異な雇用実態に注目が集まった。

「不正論文執筆に走る心理は理解できませんが、精神的に追い詰められる人の気持ちはわからなくはない」

 こう打ち明ける40代女性は、任期制の「特任准教授」だ。博士課程まで進み、若い時期に自己投資してきた研究者は、後には引けない感じになる、と言う。

「ポストを失う恐怖や、失ったときの社会的なスティグマは相当強いと思います」

 女性の年収は終身雇用の准教授と同じ700万円台だが、4年間の任期終了後に雇用を打ち切られる。女性は、1年ごとの雇用契約でキャリアを積んだ30代は、常に不安を抱えていたと明かす。雇用の継続も昇進も、上司に当たる主任教授に一任されているからだ。転職したり、産休のタイミングを打診したりする際も、常に主任教授の顔色をうかがわざるを得なかった、と女性は吐露する。

「全ての主任教授が人格者とは限りません。人間関係のトラブルはどの職場でも耳にしました」

 女性はこう訴える。

「研究も教育も営利追求事業ではないので、短期間に目に見える成果を求められるのは大変なストレスです。そうした中、身分や待遇の格差はチームの足並みがそろわない要因にもなり、研究力や教育の質の低下を招く社会全体の損失となっています」

 文部科学省の科学技術・学術政策研究所の小林淑恵上席研究官は、若手研究人材の雇用形態の傾向として「任期制雇用の増加」を挙げる。同研究所が、2012年度に博士課程を修了した人を対象に実施した追跡調査(15年)によると、大学や公的研究機関等の職場に在籍している人の約6割が任期制雇用だった。小林上席研究官は言う。

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