「手すりがありますから、ホームに行くのは大丈夫ですよ」

 三江線は山陰線の江津(ごうつ)駅(島根県江津市)から江の川沿いに中国山地を縫い、広島北部の主要都市・三次(みよし)市にある芸備線三次駅までを結ぶ。43年前に全通した比較的新しい路線だが、運営するJR西日本は2016年9月、全線を18年4月1日に廃止すると沿線の6市町に表明した。理由は、利用客の著しい減少だ。16年度の平均通過人員(1日1キロ当たりの利用客数)は83人とJR西日本発足時の1987年から約6分の1に。宇都井駅の1日の乗客数はここ数年0~1人。都市部のような高架駅にしてはあまりに寂しい。

 島根と広島を結ぶ路線敷設の運動は明治中期からあり、26年に着工、37年に江津~浜原(島根県美郷(みさと)町)間が開業。戦争を挟んで三次から口羽(島根県邑南町)までが63年に開通、75年に浜原~口羽間が開通した。だがその時、すでに地域輸送の足は自動車に移行。三江線最大の乗客数だった石見(いわみ)川本駅(島根県川本町)は1日当たりの乗降客数が68年の約3千人からわずか3年で1868人と4割以上減った。期待された薪炭などの産品を山陽線ルートで運ぶ貨物輸送も、島根から広島までを結ぶ定期の優等列車も走らなかった。山の斜面を切り開いた部分が多く、落石や倒木があっても安全に止まれるよう厳しい速度制限がつく。91年には沿線を走る浜田道が全通し、自動車との差はますます広がっていった。

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