モータリゼーションの波は、60年代にはすでに予想できたはずだ。全通の1年後、76年2月2日の朝日新聞は三江線について「将来とも、黒字に転換する見込みは、まず、ない」と断言し、それでも全通した理由を「鉄道関係に影響力を持つ代議士に恵まれて」とする沿線住民の声を紹介した。口羽駅近くに立つ「全通記念」石碑の揮毫(きごう)者は元運輸大臣の大橋武夫氏。浜原駅の石碑の揮毫者は細田博之元官房長官の父である同じく元運輸大臣の細田吉蔵氏だ。

「父祖3代の悲願の路線」を地元もJR西日本もむげに扱ってきたわけではない。地元の踊り「神楽」にちなんだラッピング列車を走らせ、全35駅に神楽にちなんだ愛称をつけた。11年からは回数券購入費補助などの利用促進事業にも取り組んだが、利用客を上向かせるには至らなかった。廃止を前に、観光客や地元住民で車内がいっぱいになりダイヤにない臨時列車が走ることも。廃止の2週間前には直通列車を1往復増やすダイヤ改定まである。だが利用促進に携わった自治体関係者は「いまさら……」と心中複雑だ。

 午後5時半すぎ。沿線に広がる川本町の中心駅、石見川本駅に近くの高校からパラパラと高校生が集まってきた。スクールバスがメインとはいえ、今も鉄道は通学の主要手段だ。高3の女子生徒は、約40分かけて自宅最寄り駅まで向かう。

「スクールバスだとちょうどいい時間に走っていないんです」

 車内でウノを始める女子生徒もいた。

 駅についた列車から、2歳の子が祖父母に連れられ降りてきた。鉄道好きで、家に帰るときはいつも列車に乗る。鉄道は、いつもそんな交通弱者のために開かれた存在だった。その役割は、果たしてどこに受け継がれるのだろうか。(朝日新聞出版・福井洋平)

AERA 2018年2月19日号

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福井洋平

福井洋平

2001年朝日新聞社に入社。週刊朝日、青森総局、AERA、AERAムック教育、ジュニア編集部などを経て2023年「あさがくナビ」編集長に就任。「就活ニュースペーパー」で就活生の役に立つ情報を発信中。

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