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「これ僕も食べられるの!?」 がん患者の夫に料理研究家が挑んだ介護食革命

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市岡ひかりAERA#がん

料理研究家・介護食アドバイザー クリコさん(57)/夫のアキオさんががんになったことをきっかけに、味が良くておいしそうな介護食を研究。著書に『希望のごはん 夫の闘病を支えたおいしい介護食ストーリー』(日経BP社)(撮影/編集部・市岡ひかり)

料理研究家・介護食アドバイザー クリコさん(57)/夫のアキオさんががんになったことをきっかけに、味が良くておいしそうな介護食を研究。著書に『希望のごはん 夫の闘病を支えたおいしい介護食ストーリー』(日経BP社)(撮影/編集部・市岡ひかり)

舌でつぶせるほど軟らかいトンカツ(写真:日経BP社提供)

舌でつぶせるほど軟らかいトンカツ(写真:日経BP社提供)

海商の「やわらかシリーズ」。現在は魚や肉など32品目だが、好評につき来期は57品目にまで品数を増やす予定だ(写真:海商提供)

海商の「やわらかシリーズ」。現在は魚や肉など32品目だが、好評につき来期は57品目にまで品数を増やす予定だ(写真:海商提供)

 食べることが何より好きな、料理研究家のクリコさんこと保森千枝さん夫婦。だが2012年、夫のアキオさんを病魔が襲った。口腔(こうくう)底がん。手術で舌の一部を含む口の中の大部分を切除し、残ったのは奥歯一本だけ。下あごにも麻痺(まひ)が残った。

【写真】クリコさんが考案した舌でつぶせる軟らかいトンカツ

 術後の点滴生活を終え、やっと出された食事は、水のような20倍がゆに、魚のすり身をどろどろにした流動食。1カ月近く続いた点滴で7キロも痩せてしまったアキオさん。たくさん食べて回復してほしいクリコさんの思いとは裏腹に、アキオさんの食は進まなかった。

「どうして食べられないの?」

 夫を責めつつ、自分でも一口味見してみる。見た目以上に、おいしくなかった。さらに、下あごが麻痺しているため、食べるのも容易ではない。スプーンを口に運ぶごとに流し込めているか確認しなくてはならず、1食1時間半近くかかった。

「退院したら、私が3食、おいしいものを食べさせないと」

 クリコさんは使命感に燃えたが、介護食づくりは想像以上に大変だった。病院にアドバイスも求めたが、摂食嚥下(えんげ)の専門家は、「嚥下には問題がないので、軟らかいものなら何でもいいですよ」の一言のみ。書店を探しても、使えそうなレシピ本はほとんどない。市販の介護食も試してはみたが、口に入れた途端、アキオさんは「うっ」と渋い顔。こちらも、頼れそうにない。

 調べるうちに、きゅうりのようにペタペタ張り付くものや、サラサラしすぎるものは胃ではなく気管に入り、詰まってしまう危険性があると知った。その日によって、口の中の状態が変わり、のみ込める硬さが変化することも徐々に分かった。

「そもそも“介護食”という言葉自体、自分で調べて初めて知ったんです。病院は治療が優先で仕方ないのは分かるのですが、もう少し適切なアドバイスをもらえていたら……」

 とクリコさん。安全にのみ込めて、かつ見た目にも食欲がわく、おいしい介護食をつくれないか──試行錯誤の末に生まれたのが、ひき肉に山芋や豆腐、お麩(ふ)などを混ぜて成形した「ふわふわシート肉」だ。味と形を保ちつつ、舌と上あごでつぶせるほど軟らかい。初めは棒棒鶏(バンバンジー)にして食卓に出した。

 アキオさんは「これ、僕も食べられるの?」と半信半疑だったが、口に運ぶなり満面の笑みで、

「クリコ、天才!!」

 このふわふわシートを応用して、焼き肉やトンカツ、エビフライ、エビチリ、グラタン……。どれもアキオさんの大好物だ。メニューを聞いただけでは、およそ介護食とは思えないラインアップに、アキオさんは「これも食べられるの!?」と驚き、「おいしい」と子どものように喜んだ。


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