「菌のエサとなる油汚れまで徹底洗浄!」との触れ込みの洗剤で皿を洗い、「細菌・ウイルス99.9%除去、抗菌コートでキレイが続く」キッチン用アルコールスプレーをシンクやまな板、台ふきんにシュッ。テーブルを拭くのは「99.99%除菌」のウェットティッシュの出番だ。99%、99.9%、99.99%と、各社の執念をひしひしと感じる。ソファには「しつこいニオイの原因菌までダブル除菌」をスプレーし、「驚きの抗菌水洗浄、24時間菌増殖ゼロへ」の洗剤で洗濯機をぐんぐん回した。

 一通り掃除を終え、手を洗おうとして目に入ったのはハンドソープの「殺菌」。家はきれいになっても、頭の中のモヤモヤはきれいになってない。除菌とか、抗菌とか、殺菌とか……。一体違いは何なのか。99%って何なのか。「すべての菌を除菌できるわけではありません」と必ず書いてあるのは、何なのか。

 メーカーに問い合わせると、各業界団体の基準に従っているとの答えだ。

 例えば台所や住宅用洗剤、洗濯洗剤なら、洗剤・石けん公正取引協議会公認の機関で試験を行い、基準を満たさないと「除菌」の表示はできない。試験で使われる菌種は、黄色ブドウ球菌と大腸菌の2種類。さらに「家庭用合成洗剤及び家庭用石けんの表示に関する公正競争規約」があり、「100%」や「完全」「万能」などの表記をすることはできないという。

 ウェットティッシュは日本清浄紙綿類工業会が自主基準を設ける。試験菌種は同じく前記の2種類だ。日本石鹸洗剤工業会では、菌の制御に関する用語の定義を紹介している。例えば「殺菌」は文字通り菌を殺すことだが、殺す対象や殺した程度という概念をこの用語は含まない。「医薬品」や「医薬部外品」で使用できる表現だが、洗剤などの「雑貨品」では使えないそうだ。「除菌」は対象物や限られた空間に含まれる微生物の数を減らす、「抗菌」は菌の繁殖を防止する意味。抗菌も対象や程度を含まない概念という。

 ごく限られた対象で、瞬間的に菌を遠ざけることはできるにしても、私たちの生活はどこまでも地続き。腸内にはそもそもすんでるし。もし菌が目に見えたら、その果てしない戦いにめまいがしそう。見えないぐらいで、ちょうどいいのかも。(編集部・高橋有紀)

AERA 2018年1月29日号