この傾向に、警鐘を鳴らす人たちもいないわけではない。例えば、防犯カメラは実は期待されるほど犯罪の予防には役に立っていない、という犯罪学や統計からの指摘がある。激情からの暴力、アルコールやドラッグの影響下での犯罪抑止には効果がないし、近年心配されているテロは自爆犯によるものが多く、自爆犯はカメラなど意に介さないからだ。

 フェイスブックやグーグルフォトに写真をアップロードした途端、友だちの名前が次々にタグ付けされた経験のある人は多いだろう。強力な顔認識機能と膨大な防犯カメラデータを合体させれば、英国人オーウェルが描いた『1984年』の監視社会はすぐにも実現可能になる。すでに英国の鉄道警察は「疑わしいという捜査要請があれば個人をリアルタイムで追跡できる」とまで言っているのだ。

 自分はやましいことなどないから大丈夫と思いがちだが、時の政府が強権的に転べば、今は合法な市民活動が突然違法になり追われる可能性もなくはない。防犯カメラは、安心をもたらしてくれる半面、不安ももたらす“諸刃の剣”である。

 実は英国では、公的な組織による防犯カメラの設置数は頭打ちか減少傾向に入っている。とはいえ、その理由は、必要な場所に設置しきって飽和したというのと、緊縮財政の中で設置効果が費用に見合わないケースが多くなっているというものらしい。ビッグブラザーの登場を懸念しての見直しではないようだ。(ロンドン在住ジャーナリスト・青木陽子)

AERA 2017年12月11日号