書店の万引き被害は深刻だ。全国の被害額は年間100億~200億円といわれ、経営を圧迫。倒産に追いやられる書店も少なくない。先の大手書店について、NPO法人「全国万引犯罪防止機構」の関係者は「万引き以外にも盗難や痴漢といった防犯が目的。顔認証の導入で、防犯効果は出ています」とする。

 ただ、使い方次第で「防犯」は容易に「監視」に転じる。監視することはプライバシーの侵害と背中合わせでもあるのだ。

 この大手書店に顔認証システムが導入されたことを、新聞で知ったという都内の会社員女性(42)は、不安を口にする。

「知らない間に監視され、自分の情報を勝手に取られるのは気持ち悪いです。悪用される可能性もありますから」

 顔データは指紋などと同様「個人情報」として扱われる。だが収集データをどう利用するかは、業界ごとに自主的にルールを検討しているのが現状だ。

 そうした中、NECは今年4月、プライバシー保護とデータ活用の両立を考える「データ流通戦略室」を社内に新設。室長の若目田(わかめだ)光生さんは「顔認証で個人情報を取得する際のルールづくりが必要。そのために、例えば設置の目的や使い道、問い合わせ先など、業界が横断的に連携し、統一したルールづくりを行っていきたい」と話す。(編集部・野村昌二)

AERA 2017年12月11日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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