京都造形芸術大学と提携して対話型鑑賞を社員研修に取り入れたパーソルホールディングスもこの「新しい発想」に注目している。同社のグループ人事総務本部組織開発部人材開発室の長島威年が説明する。

「グローバリゼーションやITの進化で、企業をとりまく外部環境は大きく変わってきています。これまでは、やれば結果が出るという正解がありました。研修もその正解を教えればよかったわけです。だから“講義型”が主流でした。だがこれからは正解が見えない時代です。そこで企業として結果を残していくためには、自分たちで正解を探していく、発見していく新しい発想が必要になってきているわけです。これまでのように待っているだけでは仕事は来ない」

 こうした状況に役立つ研修を模索する中、長島は対話型鑑賞に出合った。その経験は「衝撃的だった」そうだ。

「私が最初に体験したときは、スクリーンに映し出された平面の絵でした。初めに見た時の印象が、他の参加者の意見を聞いているうちに、どんどん変わっていくんです。画像自体は最初のままなのにもかかわらず、どんどん絵が動いていく。新しい発想が生まれてくる。これは新しい時代に向けた研修に使える、と思いました」

 ただし、対話型鑑賞の研修は、全社員に受講させる必須型ではなく、希望者だけに受講させる公募型という。環境は大きく変わっていても、実際に転換するには躊躇するのが日本企業に共通する体質でもあるからだ。従来の研修では通用しないことを感じながらも、それまでの正解を教える講義型研修から抜けだすのは難しい。だから長島も、公募型としたのだ。

「最初は理解してもらいにくいので、知り合いに声をかけまくって集めました。しかし最近は口コミで評判が伝わって、募集すればすぐに定員が埋まってしまう状況です」

 と、長島は笑う。研修を受けた社員からも、「自分の狭量なものの見方に気づいた」など、高く評価する感想が多く寄せられている。企業自体もこんな研修の必要性に気づくことが、これからの時代を生き抜くには必要なのかもしれない。(文中敬称略)(ジャーナリスト・前屋毅)

AERA 2017年12月4日号より抜粋