「三原順氏と会えばいつも、『はみだしっ子劇場』でした。私にレベルを合わせてくれ、まるで小学生のような会話。楽しく他愛もない時間は彼女の毒のある笑いで終わります。彼女の作品とは、理解よりも、じゃれ合うことのほうが心地よいです」

 三原作品の哲学的なセリフの数々は、『はみだしっ子語録』という名言集が出されたほどだ。子どもたちが直感的に見抜く大人の欺瞞や社会の理不尽を、あえて論理的に言葉で表現した点も、三原順というマンガ家の個性だ。

 舞台化を手がける劇団スタジオライフの主宰・演出家である倉田淳さんは、2001年にも三原作品の『Sons』を舞台化している。

「スタジオライフの役者は男性だけ。これまでにも女性はもちろん、少年、少女まで男性が演じてきました。劇団結成から30年が経ち、これまでの積み重ねができた。今ならやれると思ったんです」(倉田さん)

 舞台稽古を見たが、子ども役への違和感は意外なほどない。生身の役者が演じることで、作品に描かれた身体感覚、暴力性などが際立つ。グレアムは父親によって右目を傷つけられ左目しか見えず、アンジーは小児麻痺の影響で右足が不自由だ。サーニンは過去の体験から暗闇と密室に恐怖を抱いているし、マックスは親からの暴力によるトラウマを持っている。主人公4人のいずれもが、身体や心のどこかに傷を抱えた存在であることを、リアルに感じられるのだ。

「『はみだしっ子』は魂の言葉がちりばめられている作品だと思います。長い物語のダイジェストではなく、観客の方と一緒に、子どもたちの魂に寄り添うような舞台をつくっていきたい」(同)

(ライター・矢内裕子)

AERA 2017年11月6日号