甲府第一高校/午後2時、元気いっぱいに出発。その数時間後から、ただ足を前に出すことがどれだけつらいかを思い知る。最後尾がゴールするのは24時間後。極限状態での自分との葛藤は、どんなに卒業年次が離れていようと、同窓会で盛り上がる鉄板ネタだ。女子は男子のコースの30キロ地点から約40キロを歩く(撮影/写真部・今村拓馬)
甲府第一高校/午後2時、元気いっぱいに出発。その数時間後から、ただ足を前に出すことがどれだけつらいかを思い知る。最後尾がゴールするのは24時間後。極限状態での自分との葛藤は、どんなに卒業年次が離れていようと、同窓会で盛り上がる鉄板ネタだ。女子は男子のコースの30キロ地点から約40キロを歩く(撮影/写真部・今村拓馬)
OBの堀内健太郎さん(撮影/工藤隆太郎)
OBの堀内健太郎さん(撮影/工藤隆太郎)

 ボクシングで世界を獲った村田諒太は試合後に言った。「高校の恩師が言っていた……」。そう。苛烈な人生を支えるのは数字ではない。教え、そして出会いだ。多感な中高時代、どう学校を選ぶか、手がかりを探してきた。

【写真】OBの堀内健太郎さん

 甲府市内にある校舎を昼間に出発、夜を徹して長野県小諸市のゴールを目指す。その距離、100キロ超(男子)。標高差1千メートル以上。それが山梨県立甲府第一高等学校(甲府一高)の「強行遠足」だ。

 始まりは大正13年。91回を数える今年は秋晴れの10月7、8日に開かれた。「遠足」とはいうが、のんびり歩くと24時間の制限時間内にゴールできない。走っては歩きの繰り返し。先頭グループはほぼマラソンだ。

 途中、足の皮はむけ、汗で濡れたシャツが体温を奪う。鉛のように重くなっていく足。一緒だった友だちの姿はもう見えない。30キロを超えると真っ暗な山道だ。霧で数メートル先も見えない中、額のヘッドライトだけを頼りに前進しながら「何のためにこんなことをしているのか」と自問自答する。完走率は6割弱だ。

 この強行遠足を体験したくて甲府一高に進んだ3年生の岩瀬大周(たいしゅう)さんも、昨年は足の裏が疲労骨折状態となり、50キロ地点で涙のリタイアとなった。

 陸上部の長距離選手の意地をかけ、高校生活最後はトップでゴールしたい。その一心で、今年は1カ月前から父親とともに毎週30キロ走を繰り返した。

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