「海外では成功事例も多いようですが、日本の場合、敬語や礼儀といった問題が、本質的な問題解決よりも前に立ちはだかるように感じました」(芹澤さん)

 特にルクサは高級志向を売りにしているため、顧客は高所得者層で、40、50
代も多い。

「そうしたお客様に、『ありがとうございます、ぺこり』みたいなスタンプを使っていいものかどうか。礼儀を欠いてがっかりされてしまっては、ブランド価値を下げることになります」

 さらにコスト面での懸念もある。芹澤さんによれば、サポートセンターでの研修期間は、電話よりもメールのほうが長くかかる。メール対応者は、より正しい敬語、正確な表現力や文章構成力が必要となるため、電話の対応者よりも一人前になるまでに2倍かかることもあるという。加えてチャットでは臨機応変な対応も要求される。コールセンターのスタッフは勤続年数が短い傾向があるため、戦力になったころには退職、ということになりかねない。

「電話は、つたなくても声で一生懸命さが伝わります。メールは管理者がいったんチェックすることもできる。チャットは瞬時にテキストを送るので、これまでと違う難しさがあります」

 マルチチャネル化に追われながら、企業側は試行錯誤を繰り返しているが、Zendeskの藤本さんはこう前向きに見る。

「企業は問い合わせ対応から逃げたいと思っているわけではありません。お客様の声は会社にとって財産。開発やマーケティングにうまくつなげようとする流れも生まれています」

(編集部・高橋有紀)

AERA 2017年10月30日号より抜粋