これらが数学の楽しさに気づいた原体験だ。

 いつも数学のことを考える。この数はこんな性質を持っているがそこからこんな面白い問題が作れるんじゃないか……。思いついたアイデアは、書いて消せる描画ボードやノートに書き留める。ある程度考えがまとまったらパソコンに入力する。

「エレガントな証明を見つけた時です」

 そこに数学の楽しさがあると話す。

 週に1度、都内の予備校の数学講座に通うが、数学の知識はもっぱら数学書から。今はスキームの概念でも知られる「20世紀最高の数学者」のフランス人、グロタンディーク(2014年没)の論文を読み解くため、まとめノートを作っている。魅せられたのは、その発想力だそうだ。

「グロタンディークの考えた理論の一つに降下理論があります。抜け落ちた部分を補うことができないかという発想から生まれたものですが、いったいどういう発想でこんな理論を思いつくんだろう、と思います」

 将来の夢は「数学者」。「数学のノーベル賞」と呼ばれるフィールズ賞があるが、賞が欲しくて数学をやっているわけではないという。あどけなさが残る若き数学者は言う。

「誰も考えていない、新しい理論を作ってみたい」

(編集部・野村昌二)

AERA 2017年10月16日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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