●昨年には愛娘も誕生

 福岡出身ながら中学1年時に大阪に引っ越しガンバ大阪へ。ガンバ大阪のユースに所属していた高校時代は“やんちゃ”で鳴らしたというが、そのやんちゃな性格が大舞台でも怯むことなく思い切ってプレーすることにつながったのだろう。

「(これでW杯出場が決まるとか)あんまり意識していなかった。いつも通りのプレーをしようと心がけていただけ。立ち上がりからガツガツいったのは、自分の意思というより戦術だったので。(得点につながった)シュートは枠に入ればいいかなと思って打った。入るとは思っていなかったので、それで力が抜けてよかったんじゃないですかね」

 19歳で中学校時代の同級生と結婚し、昨年には愛娘も誕生。その言動にいわゆる初々しさはない。W杯出場が懸かる大事な一戦で指揮官の期待に応えたことについて聞かれても「客観的には『持ってる人』かなと思いますけど……」と苦笑いした。

 短髪に細い目が印象的な風貌はどことなく、かつて日本代表で活躍した中田英寿を連想させる。この日のプレーぶりを見ると、その中田が20歳で代表に彗星のようにデビューし一気にチームの中心へと上り詰めたように、井手口も来年のロシアW杯に向けてチームの中軸に成長を遂げてくれそうな期待感がある。

 ともにゴールを挙げた浅野も、井手口と同じく、昨年リオ五輪に出場した世代。

「これまでなかなか下の世代からA代表に入っていけてなかったので、リオ組がもっと活躍していけるようなチームになっていけばいい。W杯まではまだ時間がある。これに満足せず成長していきたい」

 最終予選では、いきなりの黒星発進で躓(つまず)き苦しんだハリル・ジャパンだが、リオ世代の突き上げは本大会に向けて好材料だ。W杯出場を決めた裏で、世代交代が進みつつあることを印象づけたオーストラリアとの大一番だったが、その筆頭格が井手口だった。

(スポーツライター・栗原正夫)

AERA 2017年9月11日号