弾道ミサイルが発射されると、赤道上空を約3万6千キロの高度で周回する米国の「早期警戒衛星」が、発射の際に出る大量の赤外線(熱)を感知し、米本土の「北米航空宇宙防衛司令部」や各地の米軍部隊の「統合戦術地上局」、米海軍のイージス艦などに情報を送る。日本の航空総隊司令部(東京・横田基地)でも米軍の情報が「自動警戒管制システム」に入り、ミサイル防衛用のイージス艦や「PAC3」部隊、レーダーサイトなどに警報が出る。

 同時に、内閣官房、防衛省、総務省消防庁、海上保安庁などに情報が伝わり、市町村でのJアラートや船舶への航行警報が出される。

 弾道ミサイルは発射直後しばらくは垂直に上昇し、その後徐々に傾いて目標に向かうから、早期警戒衛星ではミサイル発射は分かってもどこに向かうか精密な予測はできない。ミサイルがかなり上昇して水平線の上に現れ、イージス艦のレーダーや、大湊(青森)、佐渡(新潟)、下甑島(鹿児島)、与座岳(沖縄)に設置した巨大なJ/FPS5長距離レーダーでとらえれば弾道計算ができ、どこに落下するかが推定できる。

●警報慣れのリスクも

 本来、「Jアラート」はミサイルが日本の領土、領海に落下する可能性が高い場合に警報を出すことになっていたから、これまではミサイルの落下地点が推定できるまでは警報を出さず、それが分かってから警報を出しても落下後になるため役に立たなかった。今回は「南のグアムではなく、東に向かっている」という程度の漠とした情報しかない状況で警報を出したようだ。

 警報の対象地域がひどく広大になっても、遅れて出せないよりはましではあるが、それが何度も続くと住民は警報慣れし、「また空振りか」と無視することになりがちだ。1991年の湾岸戦争でイラクは「スカッド改」ミサイル88発を発射、米軍は早期警戒衛星が発射を伝えると、ミサイルがどこに向かうかまだ分からない段階で警報を出していた。目標になりそうな地点、イスラエルのテルアビブ、サウジのリヤド、米軍の補給拠点だったペルシャ湾のバーレーン、ダーランなど、すべてに警報が出たから、急いで地下室などに入っても空騒ぎに終わることがほとんどで、やがてリヤドの市民は警報に慣れてしまい、サイレンが鳴っていても繁華街は買い物客でにぎわっていた。

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