●防衛省内に不信の火種

 事実関係を調査する特別防衛監察を防衛相直轄の防衛監察本部に指示した稲田氏は7月28日、その調査結果を自ら公表。日報について情報公開法の開示義務違反にあたる行為などが陸自にあったとされたが、不開示とする決定に稲田氏の関与は認定されなかった。ただ、陸自内でのデータ保存の報告を受けたかについて「何らかの発言があった可能性は否定できない」と、はっきりしないままになった。

 小野寺氏が予算委で稲田氏に苦言を呈した背景には、こうした泥沼の対立への懸念があった。防衛省で大臣がガバナンスを失うということは、自衛隊に対するシビリアンコントロール(文民統制)が危ぶまれる事態に直結するからだ。軍部の政治介入から民主政治を守るために近代国家の原則とされるのがシビリアンコントロール。ところが東京都議選で自民党への支持の拡大に、防衛省・自衛隊の名前を政治利用するなど、稲田氏はこれまでも防衛相としての資質を疑問視されてきた。こうした稲田氏への不信感が同省内部にはあり、一連のごたごたで火に油を注いだことは否めない。

 単なる「稲田問題」として大臣交代で解決させるには、防衛省内部に禍根を残しすぎた。同省や自衛隊内部に不信の火種を植え付け、シビリアンコントロールに悪影響が出るようなことがあれば、稲田氏を重用してきた安倍晋三首相の求心力低下だけでは済まない深刻な問題になり得る。北東アジア情勢への対応どころか、首相が得意と自負する危機管理でつまずいただけに、内閣改造は“お友達大臣”でなく、資質や実績重視の後任人事ができるかどうかが極めて重要だ。

(編集部・山本大輔)

AERA 2017年8月7日