●テロの看板の掛け替え

 ただ、IS壊滅がテロ撲滅とイコールではない。アルカイダ衰退後にISが台頭したように、別の過激派組織が勢いをつけて、同じことが繰り返される可能性が十分にあるからだ。

「アルカイダにしろ、ISにしろ、支配領域を絶対に必要としているわけでなく、基本的に緩やかなイデオロギーの集合体のようなもの。組織がなくなっても、それに同調する人たちは、ずっと残り続ける」

 と、保坂氏は指摘する。

 実際に、イエメンが拠点の「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」などアルカイダ系組織は今も、IS勢力と交わることなく存在し、テロ活動を続けている。ISに忠誠を誓った各地の過激派組織は、ISから資金提供を受けているわけではなく、人的交流もほとんどない。「思想もしっかりと共有していないと思う」と保坂氏。いわゆる「勝ち馬に乗る」という状況の中で、「看板の掛け替え」は容易に起こり得る。

 さらに深刻なのが、過激派思想の広がりだ。組織ではなく個人で活動する「ローンウルフ(一匹おおかみ)」や「ホームグロウン(自国出身者)」と言われるテロリストが、欧米で続くテロの多くで実行犯となっていることが、“思想感染”の深刻度を物語っている。

 何が彼らを過激派思想にかき立てるのか。保坂氏によると、その答えを探るヒントは、新参者が過激派組織に登録する際に記入する文書の中にあるという。

●死にたい人が自爆志願

 06年と15年に見つかった数千件にのぼる登録文書によると、多くの登録者が支配や統治に参加するより、戦闘員や自爆要員になりたがっていた。これまでは体に巻き付けた爆弾をいきなり爆破させる自爆志願者が多かったが、最近の傾向は、車の暴走やナイフで人を殺してから自身も「殉教」するといった特攻志願者が目立つという。

「一般的に誤解があると思うが、実情はISが流す動画などに影響されてISに入るのではなく、死にたいという思いが先にあってISに入る人が多い。だから、圧倒的多数が自発的にテロを起こす。こうなると、根絶はなかなか難しい」

 と、保坂氏。そうした「思い」の背景については、

「根底に承認欲求がある。経済的、差別的、あるいは単に結婚できないなど個別の不満を強く抱いている若者が、シリアに行けば、みんなに認められて戦えるし、人を殺せる。最後は死ぬことでヒーロー扱いされる」

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