若者の欲求を満たす環境をイスラム過激派組織が提供しているからこそ、イスラム教に改宗してまでも積極的にのめり込む人たちが世界中に現れる。

「テロ行為の前、彼らは必ず動画などで遺言を残す。自爆ベルトを巻き、機関銃を持ち、ニコッと笑って、自爆に行く。そこに悲壮感はほとんどない」(保坂氏)

 こうした行為の正当性を強く信じているため、ツイッターでの発信も活発だ。それだけに当局にマークされやすいが、拘束されても刑務所内で思想の共有が広がり、さらに過激になって出所してくる。刑務所でのつながりが、その後のテロに生かされる悪循環があるのだ。

 過激派組織が発信する情報にも敏感だ。アルカイダが機関誌で特集した圧力鍋を使った爆弾は、13年4月の米ボストンマラソンや今年5月にジャカルタで起きたテロに使われた。今年3月以降、英国やスウェーデン、フランスなどで車の暴走やナイフによるテロ(未遂含む)が相次ぐ中、ISは車両やナイフを使ったテロを米国内で起こすよう呼びかけている。

 こうした情報は信奉者たちの間で引き継がれていく。テロ撲滅にはIS掃討といったハードアプローチと並行して、相談施設の拡充や刑務所改革、テロがイスラムの教えに反していることを知らせる教育など、過激派思想の影響下にある人たちへのソフトアプローチが不可欠だと、保坂氏は強調する。

「ISが潰されても、単に『シリア帰り』が増えるだけではいけない。いかにリハビリをして社会復帰させるか。ソフトアプローチが今後の課題だ」

 ISの壊滅は大きな成果だが、だからといって安心はできない。テロとの戦いの本番は、むしろ思想感染の撲滅にある。(編集部・山本大輔)

AERA 2017年7月17日号