●低い姿勢を保てる筋力

「オランダに行ってから脚の動きやフォームを何から何まで変え、ウェートトレーニングもしっかり始めたことで、上半身のブレもなくなってきました。海外でのトレーニングの雰囲気は、日本とは違いますが、いい勉強ができ、毎日充実しています」

 188センチの長身ゆえに、スタート時の脚の回りにスムーズさを欠く癖もあったが、低い姿勢を保てる筋力がついたことで「最初の3、4歩が以前より速く前に出せている」と改善されつつある。もちろん、ストライドの大きい、後半のダイナミックな走りは健在である。

「これが終わったら、いっぱい寝られるし、おいしいご飯が食べられる」

 3日間で計5本を走った日本選手権では、最後のレースとなった200メートル決勝をこんな気持ちで走っていたと話して笑いを誘う。プレッシャーのかかるレース前後には、神経質になる選手も多いが、メディアとの取材の受け答えからも余裕や精神面の成長がうかがえる。

 本来得意とするのは200メートルだが、100メートルでは日本人初の9秒台への期待が高まる。

「9秒台を意識しているわけではないですが、条件が揃えばおのずと出てくると思う」

 迎える世界陸上ではこの大会での引退を表明している世界最速男ウサイン・ボルト(ジャマイカ、100メートルのみの出場)との対戦を心待ちにしているという。

「前回は、雰囲気にのまれてしまった部分もあった。2度目の今回は世界とのガチンコ勝負を味わいたい。ボルトとは一度も走ったことがないので、最後に一緒に走れたら」

 18歳の大器が、世界を驚かせる日はすぐそこまで来ている。

(スポーツライター・栗原正夫)

AERA 2017年7月17日号