教育ビジネスとしてやるなら、もうからないのでやめたほうがいい。北村さんはそうアドバイスし、最後に交わしたこんな会話を覚えている。

「加計さんに地元の岡山で親しい政治家はいるのかと尋ねたところ、彼は『安倍晋三です』と」

●沈黙する加計氏

 14年、北村さんは再び加計氏と顔を合わせる。年初から、日本獣医師会会長の藏内勇夫さん、そして北村さんに会いたいと加計氏から打診があった。7年が経過していたが、その間、獣医師界の状況は変わらない。ただ、加計学園が構造改革特区に申請をし続けていることは知っていた。どれだけ熱い思いを持っているのか。日程を調整し、同年3月13日に日本獣医師会内の会議室で面会した。

 加計氏は息子と、文科省のOBだという男性の3人で訪れた。名刺を交換し、座ったきり話さない。北村さんが沈黙を破った。

「安倍さんから言われてきたんでしょ?」

「はい」とも「いいえ」とも言わない。加計氏は目をそらし、下を向いたという。

「日本獣医師会が許認可権を持っているわけでもなく、最初に会ったときと同じ説明をしました。加計氏から『獣医学部をつくりたい。ぜひ協力していただきたい』という言葉は出たが、それを言ったきり、黙り込んだ。会話にならず、10分か15分いたかどうかです」

 不思議な人だった。北村さんはそう振り返り、こう続けた。

「いま可哀想なのは、今治市民と愛媛県民だ。本当に加計孝太郎氏が教育者ならば、私学の創設者ならば、自分の財産をなげうって、やるべきです」

 こうした事実関係を加計学園側に尋ねたが、締め切りまでに異論を唱えることはなかった。

 今治市議会は今年3月、獣医学部の校舎建設費などにかかる費用192億円の半分と、建設用地(16.8ヘクタール)を無償譲渡することを決めた。愛媛県議の福田剛さんはこう話す。

「特別なインセンティブを出さないと、今治には学校は来てくれないと説明を受けたが、土地まで無償譲渡する必要はあるのか。建設費などにかかる費用は愛媛県も負担するとなっているが、決まった数字はなく、今治市の負担は計り知れない」

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