●不動産事業に成長期待

 例えば、12年に東京駅前の旧東京中央郵便局跡地に建てられた「JPタワー」は名物ビルのひとつ。名古屋駅に隣接する旧名古屋中央郵便局の敷地に建設された「JPタワー名古屋」もそうだ。それだけではない。札幌、埼玉・大宮、博多など全国の跡地が大型再開発ビルラッシュの舞台となっているのだ。

 こうした好立地の不動産を活用した再開発によって、同グループは不動産事業に関する営業利益を13~17年度の5年間で倍増させ、17年度に250億円まで引き上げる計画を描いた。与党関係者からも「日本郵便ではなく不動産事業子会社を上場させてはどうか」といった意見が飛び出していたほどだ。

 同グループと野村証券は上場時の主幹事証券という関係のみならず、共同出資のアセットマネジメント会社「JP投信」を持ち、提携関係にもある。前出のメガバンク幹部は言う。

「今回の件は野村証券が株式の第2次売却に苦慮する郵政グループに救いの手を差し伸べようとしているとみるのは穿った見方であろうが、買収が実現すれば、両者がさらに接近する契機になるのは間違いない」

 渦中の長門社長は決算発表で、国内外のM&Aについて、「日本郵政全体で成長できるのであれば、国内外を問わず聖域なく買収を考えたい」と強調した。だが、野村不動産HDの株価は買収報道を受けてストップ高(15日)となるなど急騰。「高値づかみ」と批判を受けた豪トールの二の舞いにならないか、はや懸念する声も聞かれ始めた。

 野村不動産HD買収の原資はゆうちょ銀行とかんぽ生命の含み益を充てることも予想されるだけに、M&A頼みの日本郵政グループの未来に一抹の不安は拭えない。

(ジャーナリスト・森岡英樹)

AERA 2017年5月29日号