就活時は他の電機メーカーにも内定したが、「世界の亀山モデル」に代表されるものづくりへのこだわりに惹かれシャープに入社した。希望通り、海外営業の仕事にも就くことができた。だが経営難表面化後は給与も2割程度カット。海外営業ができる仕事を探して転職活動もしたが、結局会社に残った。

子育て支援を含め、女性が結婚、出産後もキャリアを積んで活躍できる環境やサポート体制がシャープは大変充実していると考えました。大きな会社で事業部も多く、まだ挑戦したいことも残っているとも思いました」

 残留を決めたと同時に、それまでかかわったことのない商品企画の部署への異動を希望し、認められた。

「会社が厳しいからこそ、自分のキャリアを思い切って伸ばすチャンスもあると感じました」

 辞めた同僚の中には、転職先で長時間労働に苦しみ再び転職した人もいる。焦って転職することにもデメリットがある。
「シャープは組織体制や給与体系も大幅に見直されていますし、今となっては焦って転職しなくてよかったと思っています」

●自己紹介の必要ない

 ファーストリテイリンググループ上席執行役員の桑原尚郎さん(48)は、「これまで転職を考えたことはあまりありませんね」と振り返る。

 入社を決めたのは「8月1日の選考開始日に拘束をかけてこなかったのが今の会社ともう1社だけだったから」というふわっとした理由だった。「ずっと会社に居続けるとは思ってもいなかった」が、「いいものを作って安く売る、という会社の基本理念にウソを感じなかった。会社にしらける瞬間がなかったから、ずっと今までやってこられました。商品関係から人事、営業、店舗運営まで、短い部署だと1年程度で異動を重ね、社内で『転職』に近いことができたとも思っています」と言う。

 日本の場合、新卒就活時は会社がすべての情報を学生に見せないことでミスマッチが起こるため、「転職はむしろいいことで、自分は運が良かったと思います」と言う。だが、一つの会社に居続ける良さも感じている。

「プロジェクトごとに別れがあってもまた会える可能性が高いし、社内で仕事をするとき自己紹介の必要がなく、すぐ本質的な話に入れるのがありがたい」

 転職者も多い職場だが、「常にフレンドリーに、会ったことがある人のように接しています」と言う。(編集部・福井洋平)

AERA 2017年5月22日号

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福井洋平

福井洋平

2001年朝日新聞社に入社。週刊朝日、青森総局、AERA、AERAムック教育、ジュニア編集部などを経て2023年「あさがくナビ」編集長に就任。「就活ニュースペーパー」で就活生の役に立つ情報を発信中。

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