●盤上の喜怒哀楽を継ぐ

 藤井四段は昨年12月のデビュー戦でも現役最高齢(当時)の加藤一二三(ひふみ)九段に勝利するなど、公式戦で15連勝。そして非公式戦の「七番勝負」でも新人離れした強さを見せつけた。

「序盤、中盤、終盤のバランスがすごくいい。7戦全部見ましたが、明らかな悪手は一つもありませんでした。一局通して隙がなく洗練され、しかもレベルの高い将棋です。唯一負けた永瀬六段戦も相手に得意パターンを外されてドロドロの力勝負に引きずり込まれた結果負けただけで、弱さは見せませんでした」

 とは野月八段の藤井四段評。野月八段はさらに続けた。

「今後、対局を積んで棋譜をどんどん残していけば弱点や秀でた部分が見えてきます。いまはまだ『底』が見えていないのに、終盤は横綱相撲で勝ち切っている。すごいと思います」

 将棋ソフト不正使用疑惑やそれに伴う谷川浩司九段の将棋連盟会長辞任など、暗い話題の多かった棋界に現れた新星。それを後押ししたニューメディアが伝えようとしているのは、幾世代も受け継がれていく盤上の喜怒哀楽だ。前出の塚本プロデューサーは言う。

「今回、視聴者の方から『負けた羽生さんの悔しそうで悲しそうで、同時にうれしそうな表情が印象的でした』というコメントをいただきました。いつかは藤井四段が時代を創り、追いかけられる背中になる。そういうドラマをつないでいきたい」

(編集部・大平誠)

AERA 2017年5月15日号