●目指すは個人のメダル

 今年初めにスポーツ用品メーカー・ナイキと契約し、資金提供のほか全世界で広告展開ができるようになった。また、米国が拠点の有力な代理人と国際大会の出場権獲得や遠征コーディネートを任せる契約もした。

「ずっと海外転戦したいと思っていたので、まず4月に米国で3戦、5月には(世界最高峰のツアーシリーズである)ダイヤモンドリーグ上海大会にも出場する予定です」

 今秋に拠点を米国に置くことも視野に入れているという。夢は大きい。3年後には、「東京五輪の100メートルでメダル争いができるようになっていたい」と瞳を輝かせる。「そのためにも、今年の世界選手権は決勝進出が目標です」

 日本人初の9秒台をいつ、だれが出すのかに注目が集まるが、

「壁はあまり感じないし、9秒台は(今年にも)出ると思っています。通過点でありたい。9秒8台を目標にやっていきます」

 リオ五輪であれば9秒89が銀メダルに相当する。〈10秒00の壁〉を軽々と飛び越える数字を視野に収めているのだ。

 ケンブリッジのファーストネーム〈飛鳥〉はバスク語の「アスカタスナ」に由来するという。意味は「自由」だ。会社員時代によく相談に乗ってくれた先輩が「彼の挑戦は名前の通りという気がします」と感慨深げにつぶやいた。

 そのことを伝えると、ケンブリッジは言った。

「そうなのかもしれません。小学生くらいで親から名前の意味を聞かされたときも、名前の通りに生きていければいいなと思ったことを覚えています」

 名は体を表す。ケンブリッジ飛鳥は今後、どんな自由の翼を羽ばたかせるのだろうか。

(ライター・高野祐太)

AERA 2017年4月24日号