「でもそれは売る側の論理。買ってもらうためのパッケージと、買った後にお客様が使うシーンで心地よいと感じるパッケージは違うと気づいた」(木村さん)

 ネット通販であれば、機能などはサイト上で説明できる。その分、消費者にとって心地よい「暮らしになじむ」デザインを追求できるはず──。

 その仮説を実証する場となったのが「LOHACO ECマーケティングラボ」だ。同社が立ち上げ、現在100を超えるメーカーが参加しビッグデータ時代のマーケティングを共同研究している組織だが、このラボ内にECならではのパッケージ開発に取り組むグループができた。

●おじさんに左右されず

 その一社だった花王。今回のデザインリセッシュのチームを率いた同社の塗谷弘太郎・ホームケア事業グループ長は、実際の商品化は大きなチャレンジだったと振り返る。

「私たちはマスマーケットを対象に、高品質な製品を大量生産・大量販売するのを得意としてきた会社。ターゲットを絞り込んでモノ作りをするのは今回が初めてで、いろいろな社内ルールを打破する必要があった」

 塗谷さんらは、意思決定のプロセスから変えた。従来は多数のデザイン案の中からモニター調査で人気があったものを上層部に報告。「最終的にはおじさんたちの意見で決まるし、マスを意識するが故に無難なものになりがちだった」(塗谷さん)が、今回は中井理恵さん(32)ら若手の女性デザイナーを中心とするチームに決定権を委ねた。文字のフォントや大きさ、ロゴに関する制約も一切取り払い、戸惑う生産現場も説得して回った。

「純粋にデザインの力が試されるというワクワク感」(中井さん)は、消臭剤のイメージを打ち破るパッケージに結実した。

 ヒットで明らかになったのは、ネット×デザインの威力だ。値段は398円と通常パッケージに比べて数十円、スーパーなどでの実売価格より100円ほど高いが、商品レビューには「市販にはない、こういう商品を待っていた」といった好意的なコメントが集中した。店頭に大量に並べて売り切る従来型の手法では、最後は価格競争にならざるを得なかったが、「ネット限定」という希少性と消費者の心をとらえるデザインがマッチすれば、値崩れしない。

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