伊勢丹新宿本店で昨年10月に開かれた有田焼のイベントで、テープカットする大西氏。「地域の光る技術を、国内外に発信するのも百貨店の役割」という考えも持っていた=東京都新宿区(撮影/和気真也)
伊勢丹新宿本店で昨年10月に開かれた有田焼のイベントで、テープカットする大西氏。「地域の光る技術を、国内外に発信するのも百貨店の役割」という考えも持っていた=東京都新宿区(撮影/和気真也)

「小売業界の顔」だった三越伊勢丹HD社長の大西洋氏(61)が、今月末で辞任する。理想を掲げ、改革を進めてきた。なぜ突然、舞台を降りるのか。

 東京都内で13日に開かれた次期社長のお披露目会見。通常なら同席しても良い大西氏の姿はない。それでも記者の質問は、大西氏の辞任理由に集中。次期社長の杉江俊彦氏(56)の説明から見えてきたのは、意外にも「社内との対話不足」(杉江氏)であり、大西氏が生んだ会社の風通しの悪さだった。

●「反対すれば左遷に」

 大西氏は「改革者」として百貨店マンの人生を歩んできた。頭角を現したのは2003年。婦人服が主流の百貨店業界にあって、紳士服を主役に新宿にオープンして話題となった伊勢丹「メンズ館」に構想段階から関わった。

 伊勢丹社長などを経て12年にHDトップに就任。店を美術館風に改装したり、夏冬のセール時期を見直したりと、それまでの「常識」を打ち破り、伊勢丹と三越の販売力を底上げした。実際、営業利益で最高益をたたき出すなど結果も出した。

 LINEで現場の若手と交流するなど気さくな面もあった。「従業員も英気を養おう」と正月の店休日を2日まで延ばし、「現場に理解がある」(大手食品会社社長)と称賛されるなど、取引先の人気もあった。

 ところが、華々しい姿、気さくな一面とは別の顔もあった。ある社外取締役のもとに届いた投書には、悲痛な声が並ぶ。

「反対意見を言えば飛ばされる。怖くて意見できないので、どうにかしてほしい」

 大西氏のマネジメント手法を告発する投書も1通や2通ではなかったという。確かに、大西氏は部下の仕事ぶりに厳しい。周囲への激しい叱責も日常的にあり、大西氏は「主体的に課題を見つけて動けない役員や部長が多すぎる」と嘆いていたという。だが社内からは「近くにイエスマンしか置かない」と冷ややかな声もあった。

●「爆買い」減速で窮地に

 これに頭を痛めたのが後見役である会長の石塚邦雄氏(67)だ。「マネジメントの仕方を改めたほうが良い」と何度か大西氏に説いたようだが、これも響かず。ある関係者はあきれて言う。

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