この病室内で昨年8月7日、「株主の佐藤氏から総会の議長を谷岡氏に依頼したいと提案があった」として佐藤氏夫妻と谷岡氏夫妻が参加した両社の臨時株主総会が開かれたとされ、経営陣を総入れ替えする議事録が作成された。N氏らが異変に気づいたのは同11月10日、谷岡氏がビルの管理会社に所有権移転などを報告したからだ。慌ててサンウッド社の代表取締役としての谷岡氏の職務執行停止を東京地裁に求め、同12月21日に認められたが、両社の株主総会不存在確認を求めた民事訴訟はまだ継続中だ。この中で佐藤氏は「私は両社の株式も持っておらず、会社に対して何の権利も有していない。入院中に病室で株主総会が開かれた事実もなく、取締役会に押捺されたとする私の実印も偽造されたものです」とする陳述書を提出している。

●制度見直すべき

 N氏ら実質の経営陣は、実印も通帳もきちんと保管していた。にもかかわらず何の権利もない第三者に勝手に退任を登記され、自社ビルまで転売されてしまうのは会社法や登記制度に不備があるからではないのか。確かに会社法332条では取締役任期を2年以内と規定しているが、一方で定款で10年まで延長可能だ。N氏はこう憤慨する。

「まさに定款変更で役員任期を10年に延長していたので、登記のことは気にせずにいたのは事実ですが、それを逆手にこんなことがまかり通るなんて」

 登記制度に詳しい法曹家は、議事録を手にこう言った。

「内容の真偽はさておいて、書式には不備がないプロの手による議事録ですね。法務局の登記官には調査権限がないから受理せざるを得ない。しかしこれを許せば、類似の被害が頻出する可能性がある。登記の際には公認会計士の監査証明や、公証人による真正確認を要するというような制度の見直しを考えるべきかもしれません」

(編集部・大平誠)

AERA 2017年3月13日号