内田樹氏は文部科学省の次期学習指導要領案には“グローバル化への最適化”と“排他的愛国心の涵養”という本来なら相容れない要求が併存していると指摘する (※写真はイメージ)
内田樹氏は文部科学省の次期学習指導要領案には“グローバル化への最適化”と“排他的愛国心の涵養”という本来なら相容れない要求が併存していると指摘する (※写真はイメージ)

 思想家・武道家の内田樹さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、哲学的視点からアプローチします。

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 文部科学省が次期学習指導要領案を発表した。今の日本の指導層が子どもたちをどういう日本人に育てようとしているのかがうかがえる文書である。際立つのは英語教育の突出と領土の強調である。“グローバル化への最適化”と“排他的愛国心の涵養”という本来なら相容れない要求が併存している点が私には興味深い。

 国境を越えて商品や資本が行き交うグローバル資本主義と、障壁を高くして他国を潜在的な敵とみなす愛国主義が相容れないものに見えるのは、あくまで国民国家という政治単位を基礎にして考えるからである。グローバル化世界における「勝者」たちの自己利益追求という観点から見るとこの二つは全く無矛盾的である。グローバル企業はいかなる国民国家の国益も配慮しない。人件費コストの最も安い国で雇用し、環境規制の最も緩い国で操業し、収益は租税回避地に流し込む。グローバル企業の目的は株主の個人資産の最大化である。

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内田樹

内田樹

内田樹(うちだ・たつる)/1950年、東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。近著に『街場の天皇論』、主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数

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