表向きには80ページにも及ぶ指定書式での書類選考とヒアリングで厳正な選考が行われたことになっている。磯田氏の受け入れが暗黙の交付条件だったのだろうか。名大は否定する。

「押し付けられたのではない。名大からお願いして来ていただいた。給料もそんなに高くない。年俸1千万円程度だ」(名大総務部)

●天下りで事務が円滑に

 昨今の大学教授たちは忙しくなったという。昔のようにのんびりはしていられない。文科省や外部の資金に応募して競争で研究費をとらねばならなくなった。どういった分野に予算がつくのかアンテナを張り、膨大な申請書類をそろえる、そういった事務仕事に忙殺されるようになった。落選すれば徒労に終わる。それが、天下りを受け入れると、いろいろスムーズにことが運ぶらしい。文科省の来年度予算案は5兆円。

「会計検査院の退職者のうち毎年約10人が再就職しているが、内閣のあっせんが疑われる」

 民進党は国会で指摘した。天下りは他省庁でも疑われる。国民生活でなく、既得権益者たちの安寧な暮らしのために税金がばらまかれていく。

「霞が関では50歳前後から早期退職が始まる慣行がある。年金支給までどうやって暮らすのか」

 官僚たちは天下りはやむなしと言うが、OB一人の生活保障のために年数億円の補助金をつけるのは効率が悪すぎる。

 安倍政権が天下りを本当に根絶する気なら、国民が納得できる形で、早期退職を強いられる高齢公務員の生活保障を考えるべきだ。そして、天下りあっせんは違法行為なのだから、手を染めた事務次官は厳罰に処すべきで、支払われる退職金8千万円弱も減額するべきだろう。現実的かつ厳罰を伴う「天下り根絶」策を望む。(ジャーナリスト・若林亜紀)

AERA 2017年2月6日号