●主眼は公開後にシフト

 作品にさえ恵まれれば、地域のいいところをアピールでき、多くの観光客が集まるロケ地。その誘致は地域活性化につながる最強の方法として、全国の自治体などが注ぐ視線も熱い。

 注目されたのは00年頃からで、市や県の観光課などが窓口となってロケを誘致し、フィルムコミッションなど撮影を支援する組織が全国各地に誕生。その数はいま、100とも200とも言われる。

「同時に、ロケを支援する組織の目的も変化してきました」

 そう話すのは、雑誌「ロケーションジャパン」(地域活性プランニング発行)の山田実希編集長だ。

「当初、彼らが活動のメインとしていたのはロケの支援。ロケ場所を紹介するなど、作品が公開されれば活動が終わってしまうことも多かった。ところが、そもそも本格的なロケをしないアニメ作品の聖地巡礼ブームなどもあって、いまの主眼はロケ地としてその後、どれだけ観光客を呼べるか。公開後の効果に目的がシフトしつつあります」(同)

「ロケーションジャパン」という雑誌からして、映画やドラマ、アニメなど、テーマを「ロケ地」に特化した情報誌。たとえば発売中の16年12月号には、映画「海賊とよばれた男」に主演した岡田准一がロケ地を語るインタビューあり、その作品のロケ地、千葉県の旅ガイドあり。ほかに全国の有名ロケ地のグルメガイドなど、ロケ地つながりの記事が並ぶ。

 こうしたロケ地に絡めた観光は「ロケツーリズム」と呼ばれ、埋もれた観光資源を掘り起こして地域を活性化する「ニューツーリズム」のひとつとして、観光庁も絶賛、普及推進中だ。

 そのロケツーリズムの、寒いけどいま一番ホットな現場、飛騨市に再び目を移してみる。 

「飛騨はもともと観光地ですが、これまであまり見かけなかった若い男性の観光客が増えてきたのは9月の初め頃。市内の風景も一変しましたね」

 飛騨市の渡邉康智観光課長はそう話す。聖地のひとつとなっている「飛騨市図書館」では、前年同月比で来館者が月8千人ほど増加。ここから「3カ月で3万人余」が、聖地目当てで飛騨市を訪れたと推定されている。実写作品と違い、基本的にはロケがないアニメの場合、モデルとされた自治体に事前の知らせがないことが多いという。「君の名は。」も、自らの市が描かれていることを飛騨市が知ったのは16年春のこと。

「7月に映画会社から招待された試写会でやっと作品の詳細がわかり、改めて期待に胸が膨らみました」(渡邉観光課長)
 ここから急いでPR活動をスタート。市内の聖地を紹介した手作りの写真パネルを「飛騨古川さくら物産館」に展示したり、聖地マップをモノクロコピーで作ったり。物産館には、作中でも鍵を握る「組紐(くみひも)」の手作り体験コーナーも設けるなど、短期間でできる限りの策を講じ、ロケツーリズムを盛り上げた。

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