真木太郎(まき・たろう)/1955年、岐阜県生まれ。「機動警察パトレイバー」など多くのテレビアニメや映画をプロデュースしてきた。97年にジェンコを創業(撮影/写真部・長谷川唯)
真木太郎(まき・たろう)/1955年、岐阜県生まれ。「機動警察パトレイバー」など多くのテレビアニメや映画をプロデュースしてきた。97年にジェンコを創業(撮影/写真部・長谷川唯)
転機になった「千年女優」で作った宣伝用のウチワを保存している。次回作の「ダウンレンジ」(北村龍平監督)では新たな宣伝手法にも注目(撮影/写真部・長谷川唯)
転機になった「千年女優」で作った宣伝用のウチワを保存している。次回作の「ダウンレンジ」(北村龍平監督)では新たな宣伝手法にも注目(撮影/写真部・長谷川唯)

 右肩上がりの時代なんてもう来ない、という話をよく聞く。本当にそうなのだろうか? 実は身近に、30年にも及ぶ「どん底」から抜け出して絶好調を迎えている業界がある。日本映画だ。2016年の日本映画界は、「君の名は。」「シン・ゴジラ」を筆頭にメガヒットが次々に生まれた。「なぜか」を取材してたどり着いたのは、小さな決断を積み重ねた末の5つの大きな決断。「AERA 2017年1月2日・9日合併号」では、その決断の一つ一つがどうなされたのかを徹底取材。ロケツーリズムや監督と俳優の人脈図など、「日本映画」を大特集。

 お金を集め、スタッフを選び、公開時期や方法を決め、宣伝にも責任を持つ。映画の究極の裏方。なかでも、ヒット作を連発するスーパープロデューサーの思考回路に迫ってみたい。ジェンコ社長の真木太郎さんを取材した。

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 ヒットの法則、そんな言葉が薄ら寒く聞こえる。真木太郎さん(61)がプロデュースした「この世界の片隅に」の快進撃は、それほど異例づくしだ。

 全国63館という小規模でのスタートにもかかわらず、観客動員数、興行収入ともに増え続け、17年には国内の上映は200館を超える予定。米英仏など世界各国での公開も控えている。

 物語は太平洋戦争中、軍港があった広島県呉市で生きた主婦の日常を描く。いわゆる「アニメ」らしくない物語に加え、片渕須直監督の前作が振るわなかったことから製作資金集めに難航、クラウドファンディングで資金を募った。全体像は22ページに詳しいが、その陣頭指揮をとったのが真木さんだ。

「映画人ではなく一般の方が製作に手をあげてくれた。だから僕たちは『市民映画』と呼んでいるんです」

●出資者にこまめに報告

 還暦を過ぎた自身を「ミーハー」だと話す。根っからのプロデューサー気質で、実は個人でクラウドファンディングに出資し、多くの人のチャレンジを応援してきた。しかし中には、せっかく投資してもプロジェクトの成否さえ伝えてこないものもあり、猜疑心が芽生えることもあった。だからこそ、自分が映画で募った今回、

「支援者の気持ちを絶対に裏切ってはいけない」

 と心に誓い、出資者にメルマガやイベントで製作過程を報告し、片渕監督のメッセージを送り続けた。そうして「作品の誠実さと監督の誠実さがシンクロ」し、公開後の好意的な口コミにつながったと感じている。

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