田岡俊次氏 (c)朝日新聞社
田岡俊次氏 (c)朝日新聞社

 トランプ大統領の誕生で、日本の外交や経済、日米安保はどんな影響を受けるのか。日本政府はどう対応すべきなのか。安保分野について、軍事評論家の田岡俊次さんに寄稿していただいた。

田岡俊次さん(軍事評論家)
1941年生まれ。早稲田大学卒業後、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当。米ジョージタウン大学戦略国際問題研究所主任研究員などを歴任。著書に『日本の安全保障はここが間違っている!』など

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 ドナルド・トランプ氏は国際問題に関する無知を露呈する言辞を連発してきたが、日本の安全保障問題については「在日米軍の駐留経費を100%日本に支払わせる。条件によっては米軍を撤退させる」と言う。

●米軍は日本の傭兵に?

 だが、本来、「在日米軍の地位に関する協定」の24条では、日本は施設、区域(土地)を無償で提供するだけで、それ以外のすべての経費は「合衆国が負担する」はずだ。ところが、米国はベトナム戦争後、財政難に陥ったため、日本は1978年から根拠のない「思いやり予算」で基地従業員2万3千人の給与や電気・水道料金、基地の建物の建て替えなどを負担、のちには「特別協定」として定着させた。

 今年度予算では特別協定による負担は1521億円だが、それ以外に沖縄などの民有地の地代、周辺対策費、漁業補償、建物などの建設、沖縄の米海兵隊の一部のグアム移転のための「米軍再編経費」などがあり、日本政府の支出は計5954億円に達する。在日米軍の人員は、5万2千人(艦船乗組員含む)だから、1人当たり1145万円の給付だ。さらに米軍に無償提供している国有地の推定地代は、地方自治体などに貸す場合の安い地代で計算しても年間1658億円になる。それを含むと日本の負担は7612億円に達する。

 米国が出す在日米軍の経費は55億ドル(約5800億円)だが、その大部分は駐留米軍人の人件・糧食費だ。もし日本が100%負担するなら、米軍将兵が日本から給料をもらって傭兵化し、自衛隊の指揮下に入るのか、という話になる。実際には、「特別協定」が昨年12月に改定され、日本の負担が若干増えた。この協定は5年間有効だから、日本側は変更を拒否するのが筋だ。

●防衛は自衛隊の責任

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