そう笑うのは、漫画好きが集まるコンセプトバー「bar図書室」のママ、のんさんだ。近くの音楽バーでアルバイトをしているときに、前の店がやめることになり、声をかけてもらったのがきっかけだった。

「焼酎の瓶が並んでいた作り付けの棚に、漫画の単行本をふと入れてみると、これがあつらえたようにぴったり入ったんです。運命だなと(笑)、勢いで、漫画のコンセプトバーを始めることにしました」

●懐かしの貸出カードも

 コンセプトは徹底している。店内には、漫画好きのママの蔵書500冊以上が並び、漫画が読みやすいように「ゴールデン街一(照明が)明るいバー」の別名もある。蔵書の裏表紙には、それぞれ貸出カードが差し込まれ、実際に借りていくこともできるという。

 ゴールデン街には、もともとナチュラルメイクの女の子が多いが、この店のママといえばナチュラルメイクのうえメガネっ娘。漫画好きの人も、そうじゃない人にとっても、敷居の低さは半端ない。会社帰りの女性客がひとりでふらりとやってきて、デートの待ち合わせ、なんて光景もあった。

「ゴールデン街の店はバラエティーに富んでいますよね。だから誰にでもどこかに、自分に合う店が必ずあるんです。それがこの街の大きな魅力のひとつじゃないかな」(のんさん)

 そしてここ数年で、この街に吹いたもっとも大きな風。それは外国人観光客の激増だろう。やたらと混雑した細い路地を歩くと、すれ違うのは全員外国人……そんな「ここはどこ?」状態になることも、今ではぜんぜん珍しくなくなった。

「カウンターで一日、日本語を話さない日もあるくらい」

 と話す、バーテンもいた。

 ゴールデン街「G2通り」の2階にある「BAR ARAKU」も、今やお客さんの8割は外国人。世界中のバックパッカーの必読書ともいえる旅行ガイド「ロンリープラネット」でも紹介され、世界的に有名なバーとなった。

 実はこの店の代表である伊藤佑一郎さんも、かつて世界中を旅して歩いた元バックパッカー。現在の本業は就職支援会社の社長だが、「いつかはバーを開いてみたい」という夢を叶え、オーストラリア人が経営していた自身の行きつけだったこの店を、2012年に譲り受けた。

●円安も追い風に

 もともと少なくなかった外国人客が、さらに爆発的に増えたのは、その翌年のことだ。

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