「料金の安さや、円安もあったかもしれませんが、一番大きいのは、ゴールデン街が観光スポットとして外国人に知られるようになったことだと思います。こんなに密集した街並みは欧米では珍しい。この風景だけでも喜んでくれる旅行者は多いですよね」(伊藤さん)

 バックパッカー時代、世界各地でもらった思い出への恩返しができれば……そんな思いから、外国人旅行者限定でチャージをサービスしたり、お茶や日本酒のカクテルなど、外国人客を意識したメニューも多く用意するようになった。そうしてこの3年で、「ARAKU」の客数は3倍に。20席以上ある、ゴールデン街のなかでは大バコといえる店だが、「月1500人」もの外国人観光客が押し寄せることもあるという。

 路地で、楽しそうに記念写真を撮っている外国人観光客にも話を聞いた。「アメージング!」のツボは、ハイテク日本と対照的な歴史を感じさせる街並みと、店の狭さ。同じ歌舞伎町にあり、やはり外国人観光客が押し寄せているショーパブ「ロボットレストラン」とのセットで来た人も多かった。

 ちなみに、この街を楽しんでいるのは、なぜか欧米からの観光客ばかり。今やインバウンドの中核をなす中国人観光客をめったに見かけないのは、「中国には、こういう密集した飲み屋街がけっこうあるからみたいよ」なんて話を、どこかのママにも聞いたことがある。

●今夜もドラマが始まる

 この街の一角を管理する「新宿三光商店街振興組合」の事務員、和田山名緒さんはこう話す。

「最近も、ドラマ『深夜食堂』の店は、ゴールデン街のどこにあるんですか?なんていう質問メールが、アジアの国から届いてました。外国人観光客の増加で、人通りは間違いなく増えましたが、歩くだけで帰る人もいて、売り上げに結びついていない店も少なくない。まだまだ課題も残っています」

 これまでも地上げ、町名変更、火事など、約60年の歴史のなかで、しっかり生きながらえてきたゴールデン街。今夜もすべての店で、さまざまなドラマを生みながら、少しずつ前進を続けている。(ライター・福光恵)

AERA 2016年11月14日号