大成建設ではセミナーの開催予定をゆうメールで自宅に送付して家族にも知らせる。竹野さんに説明をする塩入室長(右、撮影/写真部・岸本絢)
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日本生命のセミナーでは実技も行う(写真:日本生命提供)
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NECでは社員がアクセスできる情報サイトを開設(写真:NEC提供)
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一般社団法人介護離職防止対策促進機構のシンポジウムには、企業の人事担当者等約130人が参加(撮影/村田くみ)
一般社団法人介護離職防止対策促進機構のシンポジウムには、企業の人事担当者等約130人が参加(撮影/村田くみ)

 年間10万人もの人が家族の介護で離職している今、歯止めをかけようと企業が支援に乗り出している。中堅社員の損失は経営を揺るがしかねない。経営者の意識が変わってきた証拠でもある。

「『戻っておいで』という、上司の一言がなければ、今の私はなかったと思います」

 こう振り返るのは、大成建設(東京都新宿区)第二調達部主任の竹野明子さん。2014年、山梨に住む父(当時65)が末期がんと診断された。実家は自営業で、母は働き、同居の祖母の面倒もみなければならない。近くに住む姉は子育てに追われている。「父の世話ができるのは自分しかいない──」。会社を辞めて実家に戻ろうと、上司に伝えた。

「父は手術後、すぐに抗がん剤治療に入るので、退院したら介護が必要でした。あと何年生きられるかわからない、といった状況でしたので、できる限りのことはしてあげたいと思い、当時保育園に通う娘を連れて実家に帰ることしか頭にありませんでした。上司に『辞めます』と伝えたら、『うちの会社にはこういう制度があるよ』といって、介護に関する制度を教えてくれました」(竹野さん)

【アンケート集計はこちら】働きながら介護ができる53社

●「戻っておいで」

 こうして14年6月から2カ月間、介護休業を取得した。休む前、仕事の引き継ぎを兼ねた同僚とのミーティングで、置かれている状況を説明した。同僚は、「いつか自分も同じ立場になるかもしれないから」と言って、竹野さんを送り出してくれた。

「職場に迷惑がかかるので、辞めるのが一番だと思っていました。休みに入ってからも、上司が『戻っておいで』とよく声をかけてくださったので、踏みとどまりました。その言葉がなければ、仕事から気持ちが離れてしまい、辞めてしまったかもしれません」(同)

 建設業界で働きたいと、大学では海洋土木を学んだ。同社に入社してからは、現場監督として勤務。子育てが一段落したらまた現場に出たいと思っていた矢先の出来事だった。

 家族の介護を理由に仕事を辞める人は年間10万人にもなる。

 安倍政権が掲げる「1億総活躍社会」を実現する“新3本の矢”のひとつが、2020年代初頭までに介護離職者をゼロにすること。その対策のひとつとして、来年1月に「改正育児・介護休業法」が施行される。

 介護休業とは、対象の家族が2週間以上「常時介護」を要する状態になった時、企業に申請すると、家族1人につき最大93日間取得できる休みのこと。介護の態勢を整えるための休みとされているが、総務省の調査(12年)によると、介護をしながら働く人239万9千人のうち、介護休業の利用者は3.2%。まだ広がっていないのが実態だ。

 改正後は、93日を3回まで分割して取得できるようになり、同居していない祖父母や兄弟姉妹などの介護でも使える。今年8月からは雇用保険の枠組みで、休業中の給付金が休業前賃金の40%から67%まで引き上げられている。

 介護を理由に離職する人は、企業内でも中堅社員が多い。働き盛りの社員が大量に離職することになれば、経営を揺るがしかねない。親の介護に直面した社員が仕事と介護を両立させるためにはどんな取り組みが必要なのか。

 そのヒントを得るため、アエラではこの7、8月、一般的にワーク・ライフ・バランスへの取り組みに熱心といわれる企業、70社にアンケートを送付し、53社からの回答を得た。

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