同様の調査を行った2年前と比較すると、大手企業では、介護休業は最大365日取得できるなど、国が定める93日を上回る休暇を設けている企業が増えた。さらに、失効した有給休暇を積み立てて、介護が必要な時に使用できる積み立て制度や、有給休暇とは別に年5日ほど取得できる介護休暇は時間単位での利用が可能など、臨機応変に対応できる制度が目立つ。

●社員に周知させる

 大成建設では10年から「介護離職」対策を講じている。人材いきいき推進室長の塩入徹弥さんが言う。

「働き続けることを前提に支援しようと、制度の充実だけでなく、さまざまなツールを利用して情報提供に力を入れています」

 介護休業は国が定める期間よりも長い、1人につき180日。失効した年次有給休暇を積み立て、親の介護で休む時に使えるリバイバル休暇制度などのほか、デイサービスの送り迎えの時などに応じて、勤務時間を繰り上げ、繰り下げできるように、柔軟な働き方を整えた。

 2年前と比較して、【柔軟な働き方】が広がってきたことも特徴のひとつ。例えば、デイサービスを利用する時など、送り迎えに対応するために「コアタイムのないフレックスタイム制」や「勤務時間の繰り上げ、繰り下げ」は、有効な手段となる。

 モバイル機器を利用して場所や時間にとらわれず柔軟に働けるようにする「テレワーク」「在宅勤務」は、53社中17社が導入している。

 制度を拡充しながら、それをどのようにして社員に周知したらいいのか。「制度があるのは知っていましたが、介護はまだ当分先の話だからと、詳しいことは理解していませんでした」と、前出・竹野さんが言うように、社員が情報を受け取っていないこともある。そこで、大成建設では管理職研修で「相談の心得」を伝えたり、配偶者も参加できるセミナーなどを行ったり、情報の発信に力を入れている。

「NPOと提携して専門的な相談窓口も設けました。社員には相談窓口や介護に使える主な制度が書かれた名刺サイズの紙を配布し、携帯するように呼びかけています」(塩入室長)

●座学に加えて実技も

 竹野さんは介護休業を取得している最中に、家族間で介護の役割分担を調整し、仕事に復帰。今年1月、父を看取った。

 もちろん課題もある。来年1月からの法改正では、介護休業を取得できる要件を原則「要介護2以上」と明確にする予定。そうなると、竹野さんの父のように、突然病気やけがに見舞われ要介護認定を取得していない人、あるいは取得手続きをしている最中の人などが介護対象の人は、「基準」をクリアするまで、介護休業が使えない恐れがある。会社側が社員の置かれている状況を把握して、一人ひとりに応じた、きめの細かい対応ができるかがカギとなる。

 さらに、【相談しやすさ】や情報発信に関しては、各社特徴がある。

「服を脱がす時は片方の腕からゆっくりと。同じ目線の高さから声をかけてください」

 講師の説明とともに、約200人が一斉に動き出す。参加者がペアになり、麻痺を想定して車椅子への移乗や上着の脱着等を体験。日本生命保険(大阪市中央区)が今年4月からスタートした社員向け「介護体験セミナー」では、座学に加えてこのような実技も行う。仕事と介護の両立支援の制度を手厚くした上で、“おたがいさま”の意識を作り上げていくのが狙いという。

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