「自分がどんな時代に生きているのかを言語化しながら、しっかり把握していかないと」(NewsPicksのインタビューから)

●時代に負けない強度

 巧みなレトリックも光る。

 4年後の東京五輪を未来の誰かが追想する「2020 追憶の東京オリンピック」では、すでに戦争が始まっていることをにおわせる。2020年を生きる人の「テレビをつけたりけしたり」と対になるのは、「銃をかかげ また降ろす」というフレーズだ。

 太平洋戦争に徴兵された東京巨人軍の投手・沢村栄治と、元特攻隊の祖父を重ねた「1938 追憶の兵士『えい』」も同じだ。剛速球を投げるはずが、戦地で手榴弾を投げ続けた沢村。いち早く志願したにもかかわらず、結核で特攻を果たせなかった祖父──。

 背後の映像では、光の粒がしんしんと降る。ファンファーレのようなシンセサイザーの音を操りながら、七尾は声を振り絞る。哀しくて、皮肉めいたフレーズだ。

 まるでオリンピックのようにひしめき合う/70億の身体/手足/あなたのその胸に 栄光を/あなたのなきがらに 栄光を(「1938 追憶の兵士『えい』」)

 実は七尾には、「兵士A」ではなく、別のポップアルバムを発表する構想もあった。前作「リトルメロディ」には都会的でグルーヴィーな曲も入っていたし、路線継承はできた。

 ただ、できなかった。不寛容が加速し、静かなヒステリーやパニック、抑圧された不安感が「軽くて、速い」ネットに乗って、いつ噴出するかわからない。そんな時代を感じている。

「不安定な時代ですが、それに負けない強度で、今までになかったような音楽作品を作り続けたいと思っています」(七尾)

(編集部・岡本俊浩)

AERA 2016年8月29日号